第10話 夢限大怪獣
ある朝、空を見上げるとそこには太陽はなかった。月もなかった。あるのは黒い巨影。
その得体の知れない化け物を人々は「大怪獣」と呼んだ。 空を覆いつくすその存在をもって日本全国についに知れ渡ってしまった。異世界による侵食が本格化していることが…。
その黒い巨影から無数の触手を生やして、地上にそれはめり込み、あらゆるエネルギーが吸収されていた。運動エネルギー、生命エネルギー、熱エネルギーとありとあらゆるエネルギーがその餌食になっていた。
これに対し、政府は緊急事態宣言を発令した。
不要不急の外出はしないようにと通告されていた。
その触手に当たれば生命エネルギーを奪われるからである。それは人間とて例外ではない。
自衛隊が戦闘機により、応戦を試みるも恰好のエネルギー源となっており、効果はなかった。
「なんなんだこれは?…」
「終わりだァ。日本は終わりだァ。」
「これは神の怒りなのか?」
町中で悲痛な叫びが聞こえる。
それはこの世の終わりを見たものの眼差しに包まれていた。
しかし、1週間も経つと、ある研究者はこの怪物の正体を掴んだかもしれないという確信に至った。
「こう名付けよう。アクシリオンだ。」
そう叫ぶのは量子色力学者である、加藤健一。
「空間が膨張することにより、温度が下がり、空間対称性に変化をもたらす。この空間の対称性が自発的に破れ崩れ去った時、”それ”が産まれる。その位相欠陥にあたるのが次元を超えて現れでたのがこの大怪獣の可能性がある。」
端的に言えばそんな内容の論文を発表していた。
そして更に驚くことに、
「私はこの大怪獣の幼獣を飼っている。」
この発言は大問題として取り沙汰され、炎上した。
スグに研究施設の調査が行なわれ、何をしようとしているのか加藤教授は質問攻めを受けた。
「あんたがあの大怪獣の生みの親なのか?」
そう聞かれると、
「私が作ったのではない。この歪な空間が作り出した生命体である。」
そう答えるだけだった。
「ならば幼獣はなんてなぜ飼っているのか?」
そう聞かれると、
「研究材料になる。そう思ったからだ。それ以上の答えはない。」
「研究材料にしてどうするつもりなのか?」
「この次元の、宇宙の位相欠陥を確認したいのだ。私のような職の人間ならば考えたいものは他にもいるはずだ。大丈夫だ。この怪獣なら私が始末できる。」
この発言で再び話題を呼んだ。
「どうやれば始末できるのか?」
「あの怪獣のエネルギー吸収能力には限界がある。その限界までエネルギーを吸わせれば、元の幼獣に戻る。その時、宇宙の彼方へ飛ばしてしまえばよい。」
その頃、怪獣は姿を消していた。
正確には上空に浮かんだまま、体をプラズマ化させて、姿を消したように見せかけていた。
その姿は見える毎に人々の不安を煽る。
また、姿を現したぞ!
きゃぁぁぁぁ。
そんな声で溢れかえるのがもはや日常となって2週間が過ぎていた。
「我々の手で負えることではないなぁ。これは。」
「事態を静観するしかないか。実際、怪獣なんて特撮みたいなことを目の前にして僕らはやれることなんてないんだなって改めて思ったな。」
SSSの佐々木と橋本はそんな会話をくりかえす。
「所詮、警察の真似事として俺が勝手に始めたことだ、しかし、全財産投げ打ってまでやる価値がなかったとは思いたくない。これまでの事件との共通項とか洗えるものを独自に探し出そう。」
「といってもな。相手はエネルギーを何でも吸い尽くす怪獣。紋との関係は何もないんじゃないか…あるとすれば、あいつをこの世に招来させた人物か勢力があるとすれば、この世の乱れを生じさせているという点で共通項はあるといえるかな。」
「犯人がそもそもこの世の人物あるいは勢力とは思えない気がするのは俺だけかな。」
「正直、人間の範疇を超えてると思うな。」
「だな。」
ふぅー。
2人は煙草を吸いながらお手上げ状態である。
一方、3週間も経つと、大怪獣は小さく縮んだ。
20cmほどの小型の大きさのまるでカゲロウのようなフォルムをした形態にあった。
動く様子はない。
ただ小さい儚い昆虫の姿のままじっとしている。
やがて衛生ロケットに乗せられ、大気圏外に飛ばされることとなった。
こうして、3週間と少しという期間において、大怪獣騒ぎはなりを潜めた。
と思われたが不穏なニュースが入った。
なんと衛生ロケットが謎の爆発を遂げ、墜落した。
その爆発エネルギーを吸収して再び大きくなるのか?と思われたが、幼獣は死滅したかのように静かだった。
そして、この1連の事件は幕を閉じた。
ただ、謎な点として、アクシリオンを飼っている加藤教授は姿を消したこと。
そして、なぜロケットが墜落したのか?
その原因は不明のままだった。
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