第8話 姉上

すると、隣の部屋から


「あっ姉上!姉上!」


そのような呟き声が轟いた。


まるで誰かを呼ぶように、助けにすがるような声をあげているのが聞こえてきた。


「隣室から聞こえるのは誰ですか?」


「私の研究に協力している人物だよ。」


「はぁ…」


すると自分の内から?声が聞こえる気がした。


【遂に同居できるようになったね。】


そんな声が頭の中をつんざく。


「誰?」


その様子に医者は興味を示す。


【この身体に宿りし、もう1つの人格たるドグラだよ。ようやく逢えたね。】


「逢えた?…というよりは初めて認識でき他という方が正しいと思うよ。」


これをもって藤崎未来はようやくもう1つの人格が確実に内在することを確信するに至る。


【身体貸しな】


「えっ」


すると身体の自由がなくなっていた。


「ふぅー。すっとしたわ。」


「君がドグラかね?」


「そうだ。私がドグラだ。」


【ここは…私の中?】


医者は喜んだ。


「これで2人とも逢うことができたな。」


何を持って2人が逢うことができたのかさっぱりだった。

しかし、初めてその存在をお互いが認めることはできたので、逢うことはできたのか…。彼女は流されるまま、身体の自由が奪われている。


「ところで博士。私の見た目はどこにいった?」


「まだ用意できていない。君は引き続き君のやるべきことをやるのだ。」


「把握ぅ。」


ドグラはおもむろに立ち上がった。


「それでは、侵食活動してきます。」


彼女は部屋を出ていった。


侵食活動?なんの事やら


これ以降彼女の意識が急に失われることはなくなっていた。


2人で1つの身体を共有するという事実。

そして、もう1つの人格の謎。

紋とはなんなのか?疑問が疑問呼ぶ展開で訳が分からなかった。


【あのー。私は何をすればいいのやら】


「あんたはただ見ているだけでいいさ。」


【見ているだけ?】


「真実をこれから目にすることになるが一切関心を示してはならない。私と意識を交代してはならない。」


【そんな事言われても真実を目にするのであれば気になるのは自明ですが。それに交代の仕方も分からない。】


「分からないなら分からないままでいい。傍観者になるがいい。」


窓にやがて近づき外の景色を眺める。


誰もいない。だだっ広い広場が広がっている。


「きて。マグラ!」


すると、窓から赤い液体が滴り落ちる。

その液体は集まり、柱となり、やがて人型へ姿を変えた。

そして、その姿はたちまちあの赤いドレスを着用した女性になった。


「お呼びか。来たぞ。」


「大溶解鳥をこの世界に連れていくぞ。」


「融合しますか。」


「うん。」


「フュージョンチェンジ」


2人は手を合わせ、踊るような姿勢を見せる。そして、身体が融合していく。

とろけるように溶けて、融合し、再構築され、やがてその姿はあの悪魔人間の姿に変貌した。


「ポータル」


そう唱えると、黒い渦のようなものが出現した。


「さぁ。来い。大溶解鳥デテンド」


するとその渦から黄色とエメラルドの輝きを放つ、大きな鳥が現れた。


「この世界の不要な物を溶かし尽くせ!」


そう言うと、その鳥はたちまち黒い影に姿を変え、影の中に溶け込んだ。


「これで下準備は整った。反逆者共はさっさとコイツで処理するべきだった。溶解人間では効率が悪かった。」


反逆者…まさか、あの消失者のことではないか?とふと疑問をもったが、そうなるとドグラ・マグラは紋を残させた張本人なのか?


そして消えていった者達は本当に死んだのか?溶解人間とはなんなのか。謎は深まるばかりだったが…


【妙なことは考えるな。】


【なぜ、思想の自由を奪われなければならないの?】


【お前は多重思考の実験体だ。黙って言うことを聞け。】


【そんなことを言っても私をとめることはできないでしょう?】


【さもなくばお前の父親と弟を殺す。】


【だめ。それは絶対にしてはいけないし、しないで】


【ならば言うことを聞け。多重思考者。】




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