第6話 悪魔人間
次に藤崎未来が目覚めた時には目の前に赤いドレスを着た女性が再びいた。場所は地下室だろうか?
「あなた名前はなんて言うの?」
銀髪を手入れしながら彼女は素っ気ない返事を返す。
「マグラ。」
ドグラとマグラ?
その名に妙に不信感を抱くも彼女は自分が置かれている状況を整理したかった。
私はなぜ目を覚めたら次々と違うところにいるのか。
私に宿るもう1つの人格であるドグラとは何者なのか?。
マグラは何がしたいのか。
父親と弟の場所はどこなのか。
全てを知りたかった。
「あの。私の父親と弟の場所に関して答えられないと言ってましたが、どこにいるのか知ってるのですか?。」
「それに答える義理はない。」
と言いつつ彼女は1冊の本をおもむろに取り出し、藤崎に手渡した。
「この本を読むのならば自由にしてくれて構わないよ。」
「破壊の創造者?」
手に取った本のタイトルは破壊の創造者という名の本。
「ちょっと読んでみますね。」
彼女は内容に目を通した。
「|20xx年。5月3日。堺
彼女以外誰もいない。
その手には縄が握られていた。
そう。彼女はここで首吊り自殺を試みようとしているのだ。
「お父さん。お母さん。ごめんなさい…もう生きるのに疲れた。永遠に休みたい。」
「最期にろくな言葉も残せなかったなぁ。親不孝者で終わりだぁ。」
彼女自身、これまで大学受験の際、本来志望したかった学校とは違う学校に親や先生に奨められて仕方なく受験し、合格してしまい、そのことに長らく不満を持っていた。本来文系科目が得意だったが、理系の方に進んだことを人生で最大の過ちだと思っている。
そして、苦手な理系分野に進んだがそこでも嫌なことがあった。
イジメである。
彼女自身勉強は嫌いではなかったが、理系科目の勉強は嫌いだったのでサボっている部分が多かった。その結果校内での成績は最低ランクだった。
オマケに口臭がしたのでその点でも嫌われていた。
話をすれば臭いと言う噂が広まり、たちまち肩身は狭くなっていた。
その結果まともに喋る友達すらいなかった。
そんな彼女の弱みにつけこんでくる連中がいた。
自称優等生で、クラスの中心にいると思い込んでる輩達が彼女に対してネチネチと暴言を吐き捨てたり、物理的に衝撃を与えてくる日々だった。
そんな彼女に対して周囲は見て見ぬふりをするばかりで助け舟は来なかった。
そんな日々に明け暮れていた彼女は本日をもって堺竜子の存在を消そうとしていた。
「ここで終わりか…」
「それじゃ」
そして彼女は手に持っていた縄を太い木の枝に括りつけて、縄を首にかけて、まさに自殺しようとしていた。
その時、目の前にいきなりどす黒い穴が出現した。
彼女は刹那にそれに気づいて慌てて縄をかけるその手をとめた。
次の瞬間、その穴から何かが勢いよく飛び出してきた!。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
《それ》と勢いよく頭をぶつけた結果、彼女は転んでしまった。縄は地に落ちた。
幾ばくか時間が過ぎて彼女は目を覚ました。
「あれどうしちゃったんだろう」
「さっきの人?とぶつかって気を失っていたのかな?」
辺りを見回すが誰もいない。彼女は恐る恐る立ち上がり、縄を拾いにいった。
そして自殺をしようと再び試みた。
「まあいいや。もう死ぬと決めたんだし今度こそ邪魔されないように」
辺りを警戒しながら木にかけよった。
すると、
【ちょっと待った】
誰かの声がまるで脳内に直接語りかけているように脳に響いた。
「え…」
辺りを見渡したが誰もいない。
【いやだってオレ君の脳内から語りかけてるんだぜ?】
はぁぁぁ?とその事実をすぐに受け入れることが彼女は出来なかった。
状況が掴めずにいた彼女はすぐさま口にした。
「私に語りかけているあなたは誰?ってか私の頭の中にいるってどゆこと?。」
【誰?あー名前を名乗ってなかったな。俺の名はアグノ。よろしくな。ちなみに君も見ていたと思うがオレが君の中にいるのは君と俺が〔融合〕したからだよ。】
「はい?そんなの見てないんですが?」
「というか邪魔しないでください。もう今日限りでこんな世界とはおさらばしたいんです!。勝手に融合なんてしないでください。というか本当に融合しているのかも分からないけど」
【なんでと言われるとだな。この世界の空気に浸るとオレの体質的に5分が限界なんだよね。だから仮の〔体〕が必要だった。そこでこの世界に着いた時目の前の君を選んだだけ。これも一期一会の出会いだと思ってくれ。】
「一期一会なんて言い方するけど、普通に迷惑なんですが。まるで誠意があるみたいだけどさ。」
【言ってみたかっただけだよ。】
【あとそれから今から君の体の支配権はオレに譲渡されるよ。】
「えっじゃあ私死ねるのか?」
【そういう訳では無い。こういうことさ。】
次の瞬間、竜子は体を失ってまるで幽体離脱したような感覚に陥った。
すると脳と体の繋がりが絶たれたと直感的に思った。
「こういうことさ。つまり、立場が逆転するということさ。オレと君の能力の差によって体の支配権が移り代わったのさ。」
頬に
【あれ。これ私が私の中にいるの?言い方おかしいかもしれないけど、というか脳の命令が体に効かない感じかな。】
「今君の体の支配権はオレにある。」
「もちろん譲渡することも可能だが、今の君では自殺してしまうだろう?だからこの体はしばらくオレが預かるよ。今オレにはこの体が必要なんだよ。」
そしてアグノは乗っ取った体で力んだ。そして左手を変化させた。
「これがオレの手だよ。この世界で顕現させるのは1度で20分が限界だろう。」
【あなた人間じゃないのね!?。ビックリしたわ。尻もちつくかと思った。つけないけど!。そもそも融合なんてしてる時点で普通の感覚で捉えたらダメだったね。今更すぎたわ。】
「オレは人間ではない。竜人よ。第792の世界からこの第9の世界に来た。この世界の実質的支配者層が人間なのは知っている。」
こんな冒頭から始まる駄文が続いている文章だったが
「時間ならあるし、ゆっくり読んでいいよ」
と言われたのでゆっくり読むことにした。
内容は第1の世界という始まりの世界を作り、その世界から多数の世界の”素”を創造神が創り出し、第1~9の世界と呼称し、この世界は第9の世界にあたるもので、下敷きになった世界として第162の世界があったとされる。第9の世界の上位種として新たに創られたのが第792の世界が創られた。この世界の知的生命体には神の能力に似たものを持たせたと言われている。これは第162と第792の世界に共通する事柄であるが第9の世界にはこれらがない。第9の世界は〈失敗作〉として破壊の女神によって破滅の未来が定まっている。それを見越して、第162の世界の罪人を第9の世界に集めて流刑地にしようという計画が神々によってなされるという警鐘を鳴らす作品である。
そして読み終えた。
「読むのに何日かかった?」
「まる2日だね。」
「それでこれで何を伝えたかったのか分からない。」
「ヒントだよ。」
「え?」
「あなたが知りたいことのヒントがそこにはある。それだけ言っておく。」
「そもそもこの本フィクションじゃないの?それに日本語で書かれてるし…」
「フィクションじゃない。事実だ。それから日本語なら私もわかる。その本の執筆者の名前を見てみな。」
活字で金色に掘られていた。
ドグラ・マグラ
そう書かれていた。
「なにこれ。共同作なの?」
「違う。ドグラと私マグラは融合できるのさ。」
「えっ。」
次の瞬間、マグラは目の前にいた。
そして、
「フュージョンチェンジ」
そう唱えると、
黒い渦のようなものが出現し、私の身体とマグラの身体が混ざり始まる。
やがてその珍味な光景が終わると次の瞬間
【これで2人で1つになれたの。】
頭の中でそう囁く声が聞こえる。
「一体何が起きたの?」
【文字通り融合したのさ。あなたと私は一心同体。】
驚きの連続でリアクションに困る。
融合してしまったのか。しかし、手は普通に動く。身体の自由は私にあるようだ。
【ドグラとマグラ、合体してドグラ・マグラだよ。】
藤崎未来はその名前に何か覚えがあるようなないような気味悪い感覚に陥っていた。
そして水面に映る自らの姿に驚愕した。
黄色い瞳。額から2本生えたツノ。白と黒のコントラストの肌。赤いドレス。綺麗な銀髪。巨大な漆黒の翼。白い鋭利な尻尾。鈍い光をする銀色の鈎爪。とても人間の姿ではない!
「なんて姿なの!これではまるで悪魔じゃない!」
【悪魔と人間の融合…悪魔人間とでもいいましょうかねぇ。グハハ。】
そして、藤崎未来は再び気を失った。
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