第16話 サプライズを狙うお嬢様

「桐絵さん、お誕生日、おめでとう!」

「えっ!?」


 それから改めて海に入って泳いだりはしゃいでから、夕方になり別荘にもどってお風呂で身を清め、夕食の準備はできているとのことでアメリに背を押され食堂へ行くと電気が消され、大きな誕生日ケーキが机に置かれていた。

 ちゃんとプレートにも書いてあって、誕生日ケーキであってお祝いをしてくれていることは間違いない。

 だけどまさか、なにかしていると思ったのが桐絵の誕生日祝いだなんて全く予想をしていなくて、言葉がすぐに出ないくらいだ。


 そんな桐絵にアメリはにやにやと得意げに笑って胸を張っている。


「ふふふ。驚いているようね」

「う、うん。え、だって。もうとっくに過ぎてるのに? 知ってるでしょ?」

「当たり前でしょう? ちゃんとお誕生日当日に電話だってしたじゃない」


 桐絵の誕生日は夏休み中盤に終わっている。その時に律儀に電話をもらってすでに祝ってもらって、普段夏休みであまり友達から祝ってもらうと言うことが少ない桐絵は結構嬉しかったり、なんてイベントもあったのだ。

 なのに今? 会ってすぐ言うとかならまだしも、四日目にして今? 誰がそれを予想できると言うのか。自由すぎる。


 アメリに押されるまま席に着くと、向かいに座っていたメアリは首を傾げた。


「え、今日が誕生日だったんじゃないの?」

「違います。だからその、びっくりしてしまって。でも、ありがとうございます、二人とも。嬉しいです」

「今日お誕生日会をするって、午後になって聞かされたから、ごめんなさいだけど私のプレゼントはまだないの。帰るまでには用意するから、それまで待っていてね?」


 ウインクして謝られたけど、そんなプレゼントを強制する気はないし、知り合ったばかりで申し訳なさすぎる。急いで手を振って否定する。


「いえいえ! そんな、気を使わないでください。お祝いしてくれるって言う言葉だけでも嬉しいのに、ケーキも用意してもらっているのに」

「本当はあなたがしてくれたように、二人きりでお祝いするつもりだったのだけどお姉さまがいるのは仕方ないわ。さ。臭いが付いてしまう前に、吹き消してちょうだい」

「ありがと」


 話題を変えるようにアメリが助け船を出してくれたので、ほっとしてそれにのっかる。


 アメリの誕生日は一学期の間に過ぎており、その際に桐絵が寮の部屋でお祝いしたのがよほどうれしかったのか同じように返してくれるつもりだったらしい。

 それで会ってすぐではなく、わざわざ外出先で用意してくれたらいい。その理屈はよくわからないけど、下手に家族を巻き込んで祝われても恐縮だし、素直に気持ちは嬉しい。


「じゃあ、いくよ?」


 ふー、とロウソクの火を消す。実家でももちろん誕生日は祝ってもらっているが、さすがにもうロウソクの火は恥ずかしいからやっていなかったのだけど、意外と悪くないものだ。

 アメリが祝ってくれているのだと実感して、胸がくすぐったくなるような喜びが湧き上がる。


 すべて消すと、拍手と共に部屋の明かりがつく。おめでとう、と改めて祝ってもらい、見回すと使用人の人たちにも拍手されていてなんだか恥ずかしくなってしまう。


「あ、ありがとうございます」


 頬が熱くて顔をさげたくなるけれど、今それは違う。恥ずかしいけど、それぞれの顔を見てお礼をしっかり伝えた。


 それから食事だ。いったんケーキは冷蔵庫に保管してもらい、食堂横の海が臨める庭でバーベキューだ。全てしてもらえるので、火元から離れたところで涼みながら夜の海を見ながら食べる。

 実家でバーベキューと言えば、自分たちでわいわい言いながら焼いているのが楽しみなところがあったので、小さいことでも家によって個性がでるなぁと思いながらいただいた。


 それから花火もして一通りはしゃいで、汗をかいたのでお風呂に入った。

 桐絵がやってきてからはアメリの家でも二人で入って普通にすごしていたけれど、メアリも一緒だとさすがにアメリも恥ずかしいのか、自分で洗おうとしていた。が、メアリがはしゃいで洗いっこしましょう! とか言い出したのでグダグダになって結局アメリのことは桐絵が洗ってあげることになった。

 そんな一幕もあったが、メアリは何だかんだアメリを溺愛しているのは間違いないようで、桐絵に世話をされているアメリを見てもからかうでもなく、可愛いとニコニコしていた。


「ふー、さすがに疲れた。今日は改めてありがとうございました」

「はーい、じゃあお休みなさい」

「おやすみなさいませ」


 そして割り振られた部屋に向かう。メアリたちは自室があるけれど、もちろん桐絵にはないので、客間になる。最初に軽く案内してくれていたので、迷うことはない。

 メアリとは浴場の前で別れ、そして客間に入る。


「アメリ? どこまでついてくるの?」

「え? 私も一緒に寝るわよ?」

「え? 聞いてないけど」

「言ってないもの」


 続いて部屋に入ってきたメアリはご機嫌な様子でベッドに転がった。確かにベッドは大きいし枕も二つある。それは最初に荷物を置いたときにも見ていたけど、まさかそんな意図だったとは。

 アメリの実家では客間ではなく、アメリの部屋にベッドが増やされる形でお邪魔しているけれど、それはまあアメリのお客さんと言う形なんだし夜は完全に別室でと言うのもお泊り会らしくないからそれはいい。でもさすがに同じベッドとは思わなかった。普通にベッドが一つなら一人部屋なのだと思うだろう。


「だいたい、まだ髪も乾かしていないのだから、別れるわけないでしょう?」

「暑いから今は嫌、って言ったのはあんたでしょ」

「そうよ。だから、寝る前にやってちょうだい」


 部屋はすでにクーラーで適温になっている。入浴で火照った体が心地よいので、寝る前には確かにドライヤーも平気で使えるだろうけれど。

 桐絵は呆れながらとりあえずベットにあがって隣に寝転がり、仰向けの状態で顔だけ向けて会話をする。


「あんたさぁ、メアリさんとか普通に自分でドライヤーしてたでしょ。お嬢様が過ぎるからできないのかと思ってたけど、単にあんた1人が駄目なだけじゃない」

「だ、駄目とかじゃないわよ。逆よ。メアリお姉さまが、何でも自分でやっちゃうタイプなの」

「えー? まあ確かに、思ったより活発タイプではあるけど」

「私が駄目だなどと、ひどい侮辱だわ! お誕生日のプレゼントだって用意しているのに、許さないわよ!」


 むぅ、と眉を寄せたアメリは両肘をついてうつ伏せ状態で起き上がって、ジト目で桐絵を見降ろして怒ってくる。


「え、そうなの? ケーキで十分なのに」

「あなたはケーキを手作りしてくれたけど、私は既製品なのだから、まあそのくらいは? 当然なのだけど?」


 アメリの誕生日は確かに桐絵がケーキを作ったけれど、それは平日なのに週末までお預けなんて嫌だと我儘を言ったからで、作ったと言ってもシフォンケーキに生クリームと果物のカットをのせただけなのだけど。

 その時は感動したようにはしゃいでくれていて嬉しかったけれど、だからと言って具体的にお返しで考えられていると思うと、申し訳ない気もする。


「そう……色々気を使わせてごめんね。でもありがとう」


 手を伸ばしてよしよしとアメリの頭を撫でる。タオルでしっかり水分を取ったとはいえ、まだまだ湿っている重い髪は、だけどその分光を反射してきらめている。


「ん。こんなので誤魔化せると思ったら大間違いよ。まあ、忘れないうちにプレゼントはあげるけれど」


 アメリはそそくさと桐絵の手を払ってベッドから出て、机の引き出しを開けて小さな箱を取り出して戻ってきた。

 そしてベッドの上で崩して座った状態で桐絵に向かい合う。桐絵も合わせて起き上がり姿勢を正した。


「はい、桐絵さん。その、私の気持ちよ」

「ありがとう。すごく嬉しいよ。すぐに開けていい感じ?」

「もちろんよ」


 アメリから受け取った小箱は細長い。文房具、万年筆とかかな? アメリにしては真面目なプレゼント。と思いつつ、わくわくしながら綺麗なラッピングをほどいていく。


「ん?」

「? 早く開けなさいな?」

「う、うん」


 包装紙をはがし紙製の箱を開けて、思ったより立派なケースが出てきて、ベロア調の手触りに取り出しながらちらりとアメリを見たが不思議そうにせかされた。

 紙箱から取り出し、そっとケースを開けた。見た瞬間、可愛い。と困惑を超えて胸を突き抜けた。


 中身は薄々そんな気はしたがネックレスで、ピンクゴールドの素材で細いチェーンとトップはしずくモチーフで、小さな水色の石が右側に散るようにしてつながっているのが小花が咲いているみたいでとても可愛い。


「これめちゃくちゃ可愛いわね」

「でしょう? ふふふ」

「……これ私へのプレゼントってまじ?」


 おそるおそる、まさかね。と上辺だけ笑いながらそう尋ねると、得意満面だった桐絵はびくっと肩をゆらすほど驚いてみせる。


「え、な、何よその反応は? 気に入らないっていうの!?」

「いや、めちゃくちゃ好みだけど? ネックレスって、友達同士で送るものじゃないっていうか、私ケーキって言っても簡単なもので、何もあげてないのにこんなのはさすがに、申し訳なくてもらえないっての」

「あら? 別に高いものでもないわよ?」

「そうだとしても、私だけこんなしっかり祝われるのはさすがに。ハンカチとか筆記用具くらいの気楽に受け取れるものならともかく」


 プレゼントしてくれると言うその気持ちはもちろん嬉しい。だけどこれはさすがに、そう気安く受け取れるものでもない。

 友達の感覚で受け取れるものにしてほしい。プレゼントをしたことがないのか、このお嬢様は。

 と桐絵がやや呆れて苦笑しながら言うと、アメリはむっとしたように眉を寄せて真剣な顔になった。


「桐絵さん。私のことを馬鹿にしていらっしゃるの?」

「え? 何でそういう話になるの?」

「私が、あなたにこれならばと思い、心を込めて贈るのよ? 例え安物のハンカチだったとして、気楽になんて受け取ってもらいたくないわ」

「え、あ、その、今のは言い方が悪かった。ごめん。でもね」


 確かにそうだ。いつだってまっすぐなアメリは、きっと真剣に選んでくれたのだろう。だったら気楽に受け取っていいものなんてないだろう。

 だけど、と反論したかったけれど、それを許さずアメリはさらに顔を寄せ続ける。


「だいたい、ネックレスだからダメだなんておかしいじゃない。私がこれを見つけた瞬間、あなたに絶対似合うと思ったり、あなたが喜んでくれるだろうって思ってた気持ちは、何だったとして変わらないのに」

「そ……れは、その」

「どうしても公平じゃないと気になるなら、来年はあなたがネックレスをくれればいいじゃない。いいから受け取りなさい」


 そう言ってメアリは、小箱を持つ桐絵の手を離させないとばかりに上から抑えるように触れて、桐絵の胸元まで押した。

 その真剣さに、そしてさらっと来年のことを決める横暴さに、未来を疑わない純粋さに、桐絵は笑うしかなかった。


「わかった。降参。確かに、今回の件は完全に私が悪かった。ありがたく頂戴いたします」

「ふん。わかればいいのよ。全く。桐絵さんは物分かりが悪くて困るわ」


 得意げになって、また上から目線なことを言うが、今だけは全くイラッともしない。確かに今回は、桐絵が無粋で間違っていたのだろう。


「はいはい。すみませんでしたー。……ありがとう。大切にするね」


 ネックレスは、友達同士にしたら高価で受け取りにくいと言うのを除けば、とても可愛くて桐絵の子のみドンピシャで、すごく好きだ。

 それにこれをアメリは桐絵に似合うとおもって、喜んでもらえるだろうとウキウキしながら用意してくれていたのだ。そんなの、可愛すぎるだろう。

 ただでさえ素敵なネックレスが、とてつもなく輝いて見えて、桐絵はうっとりするようにそれを見てそうアメリに改めてお礼を言った。

 その様子を見てアメリはどや顔から、柔らかく優しい笑みに変えた。


「ええ。そうしてちょうだい。ふふ。ね、つけてあげましょうか?」

「ん。じゃあ、お願い」


 アメリはネックレスを取り出す。その細くて白い指。持ち上げたアメリにもよく映えていて、アメリにプレゼンを送るのは楽だろうな、と桐絵は思った。きっと何だって似合うだろうから。

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