第15話 スイカ割りにはしゃぐお嬢様

 海中の小さな魚たちを追ったり、岩場に隠れる生き物にちょっかいを出したり、貝を採ったりして遊んでから、疲れたので浜辺にいったん戻った。

 傘の下のベンチシートに腰かけ、ジュースを飲みながら次は何をしようかと話す。


「少しは体も冷えたし、次は陸上の遊びしない? 砂のお城つくるとか」

「ふむ。よろしくてよ。最強のお城をみせてあげますわ」

「最強の意味がわからないんだけど」

「何を言ってますの? お城とはすなわち、要塞よ」


 しゃがんで早速砂をかき集めるアメリに顔をあげてきょとんとされてしまったけど、お嬢様にとってお城は要塞……? いやもちろん、間違ってはいないだろうけれど。砂のお城は百パーセントメルヘンでも許されるのでは?


「まあ好きにしていいけど。私はこっちで作るね」

「え? 一緒に作るのではなくて? 一人だと砂を集めるのが面倒じゃない」

「え、あーじゃあ作りますか」


 自然と個別に作って出来栄えを比べる勝負で考えてしまったけれど、言われてみれば協力して力作をつくってもいいだろう。むしろなんでも勝負で考えてしまうのが恥ずかしくなってきたので、桐絵は誤魔化すように頭をかきながらそう答えて隣にしゃがんだ。


「いいわよ」

「だから、何で上から? 手伝ってください、でしょ?」

「手伝わせてさしあげます。光栄でしょう?」

「は? 日本城にしてやるから覚悟しなさい」

「ちょっと、要塞として有名なお城と言えばケルフィリー城ではなくて?」

「は?」


 いやまじで、は? だったので検索した。なるほど。元々は要塞としてつくられ、刑務所としてもつかわれていた、と。桐絵は軽く情報を確認してから、アメリをジト目でみる。


「却下可愛くない。西洋のお城なら、ノイシュヴァンシュタイン城が鉄板じゃない?」

「何馬鹿なこと言ってるのよ。あんな難し、もとい、あれは要塞ではなく趣味で作られているお城だから論外よ」

「あんたさっきの城選んだの絶対簡単だからでしょ。もっともらしいこと言わない。別にそっくりにとか言わないし、明確にモデルなくてもいいんだけど、可愛い感じにするからね」

「我儘ねぇ」

「どっちが」


 ぶつぶつと文句を言いあいながらも、とりあえずある程度土が集まったので、銘々建物を作り出す。仕方ないので西洋っぽい感じで。


「あら、なにそれ。遠見台?」

「なんかこう、高いのあるよね。あとやっぱり城塞で大事なのは門と塀でしょ? それは後で作るとして、中身はどういう建物がいるの? 食糧庫とか?」

「そうね。もちろん本棟の中にもあるでしょうけど、外に倉庫も必要でしょうね」


 見様見真似でそれっぽく作っていく。ちいさな建物や屋根をたくさんつけたり、窓を書き加えたりしていくとそれっぽい姿に見えていった。


「ねぇ、ちゃんと見てくれて、あら! 立派なお城つくってるじゃなーい。私も手伝ってあげるわ!」

「ではお姉さまは、土を集めてくださいな」

「えー、裏方?」

「集めたら、私と一緒に塀をつくるのを手伝ってください」

「むむ。仕方ないわねぇ」


 終盤近くからはメアリも参戦し、最終的には二時間以上かけた超大作ができた。

 正直ここまでする気で提案していなかったのだけど、始めてすぐにそれらしき道具までいつの間にか横に用意されていて、おまけに参考資料の写真までラミネート加工で置かれていたのでひっこみがつかなくなったのはある。


 単なる城を超えて、ちゃんと要塞としての機能をもった出来栄えだ。

 もったいないのでしっかり写真に収めておく。メアリが一緒に作ったどや感をしているのはやや納得がいかないが、塀はほとんど作ってくれているので良しとする。

 三人での記念撮影もしてから、砂を落としてから昼食をとることにする。メアリが使用人に指示をして、用意がされている間は、こちらにとビーチ上の屋根もあるテーブル席に飲み物があるところに通された。


「さすがにお腹が空きましたわね」

「そうね。お昼は何ですか?」

「もちろん、ラーメンよ!」

「あ、はい」


 どうしてもちろんなのかはわからないが、ラーメンが用意されるらしい。アメリもうんうんとうなずいているが、海で麺類と言えばむしろ焼きそばなのだが、用意してもらう立場なので黙っておく。桐絵もラーメンは好きだが、この暑い中ラーメンか、と言う思いはしまっておく。


「お昼食べたらどうします?」

「そうですわね、少し休みたいので、お昼寝にしますわ」

「私もサーフィンはおわるけど、二人とも休憩の前に一大イベントがあることを忘れているわよ」

「一大イベント、ですか?」

「スイカ割りよ!」

「え! 本当ですの!?」


 メアリの言葉に、アメリは無駄にテンション高く目を見開いて反応した。

 話を聞くと、どうやら幼い頃にやりたがったことはあったが、その時は危ないからダメ、と禁止されていたらしい。がメアリが出発前に確認したところ、今なら大人だしすっぽ抜けたりはしないだろうから、十分注意したうえですること、と許可をもらえたとのこと。


 大げさな話だ。とはいえ、桐絵もそう頻繁にするものではない。年に一度で、それも年少者からなので、下二人で割れた場合はまわってこないため、去年も今年もしていない。今回は桐絵からだろうし、楽しみではある。


 あつあつのラーメンをひぃひぃ言いながら、何故か二人は笑顔で食べ、そして氷水につけられていたスイカが無情にも地面にシート一枚の上に置かれる。

 冷えていたのにもったいない気もするが、お皿に置いたら危ないし、そこだけ傘などで影にしたら目を閉じていてもわかってしまうので仕方ない。


「では桐絵さんからどうぞ」

「ありがとう。ちゃんと誘導してよね?」

「まかせて、桐絵ちゃん。私がしっかり導いてあげるわ」

「あ、はい。お願いします」


 きゅっとアメリが桐絵の頭に目隠しをまき、くるくると10回も回された。意外と本格的にやるな、と思いふらつきつつ、差し出された棒を何とか受け取る。


「えっと、こっち側?」

「桐絵さん、スイカはもっと右よ!」

「右に45度向いて!」

「はいはい。このくらいですか?」

「そのまままっすぐよ!」

「ゆっくりゆっくり!」

「もう少し左よ!」

「ストップ! もうちょっとだけ左向いて!」

「あ、行き過ぎよ! あと五度だけ右よ!」

「いいわよ! ふりなさい!」


 やんややんやと指示出され、言われるままに振り下ろした。ぼこん、と言う鈍い音と感触に手ごたえを感じながら、桐絵は目隠しをとった。


「やったわね!」

「おめでとう! 桐絵ちゃん!」

「ありがとうございます。二人とも一定方向にちゃんと指示出してくれるから、分かりやすかったです。でも二人とも楽しみにしていたのに、私が割って申し訳ないですね」


 もう他の人が割る余地がないほど、しっかり真っ二つになっている。こういう場合、一人くらいふざけて違う方向に言ったりするから難しいんだけど、二人だしちゃんとした指示だったので普通に一発で成功してしまった。

 だけど謝る桐絵に、二人はきょとんとした。そのそろった顔が似すぎていて、桐絵は笑ってしまいそうになるのをこらえる。


「桐絵さん、何言ってるのよ?」

「そうよ。心配いらないわよ? ちゃんとスイカは人数分あるし。次のスイカお願い」

「え、そんなに割っても食べきれな、あーそっか。人はいますもんね」


 使用人がどこにいるのかと言うくらいいるのだから、いくつ割ったって誰かが食べてくれるのだろう。

 と言うことで交代して二人も割り、楽しかったようで追加で二つずつ割って、多少の腹ごなしにもなったのでスイカをたっぷり食べてから、お昼寝をした。

 ビーチにも関わらず、しっかり広めの屋根付きでどこから持ってきたのか氷柱まで横にきて冷風を送ってくれるのでかなり涼しく感じられ、ぐっすりと眠ることができた。


「ん……」

「あ、起きた」


 目を覚ますと同時に顔を覗き込まれていることに気が付く。そして頭の下の妙に高い感触と言うことで、遅れて膝枕されているのだとわかった。


「ん、あ? ……め、ありさん?」

「ええ、そうよ。アメリかと思った?」


 悪戯っぽく微笑まれ、桐絵は頭を抑えながら起き上がる。寝る前は頭が上がっている状態のシートだったのに、いつの間にかフラットになっている。

 膝枕を無理やりされた、と怒ることでもないが、やっぱりちょっと距離が近い。朝よりは、一緒に遊んで距離が近づいたとはいえ、まだ近い。


「いえ。アメリが私に膝枕するわけないので」

「そうなの? 二人ってすごく仲良しだと思ってたけど、そういうのはしないんだ?」

「私がしてあげることはあっても、アメリにしてもらうことは、まあ……」


 腕枕は、あったけど。と思ってから、自分からアメリの頬にキスしたことを思い出して言葉を濁した。姉の前で思い出してしまったので、何だか気まずい。


「えー!? そうなの!? やだぁ、二人とも可愛いー」

「はぁ、どうも。アメリはどこへ?」

「アメリなら桐絵ちゃんが寝ている間に、えっと、ちょっと席をはずしているわ」

「はぁ」


 わざとか、と言いたくなるくらいあからさまに、何かありますと主張する言い方だったが、面倒なので突っ込むのはやめた。

 ずっと同室で寝起きしているアメリが、今更桐絵が寝ているからと悪さをするとは思わない。もししたら、今後の寮生活に支障がでてくるのだから、さすがに大丈夫だろう。


「それより桐絵ちゃん、もう完全に目は覚めたの? 元気なら遊ばない? ビーチボールはどう?」

「んー、遊ぶのは全然いいですけど、それって二人でして面白いです?」

「したことないからわからないけど、じゃあ、ビーチフラッグとか?」

「あ、それ面白そうですね。それにしましょう」

「えぇ、まあいいけど。じゃあ、負けたら買った方をお姉ちゃんと呼ぶことにしましょう」

「それ、負けたら私をお姉ちゃんって呼ぶってわかってます?」

「それはそれで面白そうじゃない? 桐絵ちゃんしっかりしてるし」

「いやまぁ、いいですけど」


 無理強いされるのは嫌いだけど、そういう罰ゲームのノリならありだ。むやみに一つ言うこと聞くこと、なんてしないだけむしろ好感をいだく。

 桐絵は呼ばれたところで何も得はしないが、メアリにお姉ちゃんと呼ばれるのも、それはそれで面白そうかもしれない。


 桐絵はアメリが戻ってくるまでメアリと遊び、無事お姉ちゃんと呼ばれることになった。もちろんアメリは訳が分からず混乱したので、二人で笑った。

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