第7話 デート(仮)①

 今、俺は女の子を待っている。

 彼女ではない。


 浮気してるのかって?

 違う違う。


 結菜に誘われてしまって断れなかったのだ。


 もちろん、彼女である愛美には話してある。



 ―回想―


「すまん、愛美。今週の土曜、予定が入った」


「何かあったの?」


「いや、結菜に遊びに行こって言われちゃって」


「結菜ちゃんに?」


「そう。なんでもテストのお礼がしたいとか」


「テストのお礼?」


「いや、テスト週間の時、あいつにちょっと問題を教えたんだよ。そしたらテストで似たような問題が出てさ。で、それが解けて点数も上がったからお礼がしたいってさ。

 あいつには普段から世話になってるから、断るのも申し訳ないし」


「そう、なら仕方ないか。今回は結菜ちゃんに譲るよ。

 そのかわり、来週は絶対に私と遊びに行くんだからね!」


「お、おう。楽しみにしとけよ」


 ―回想終了―


 長い回想を終え、俺は現実に帰ってきた。そして両手で顔を押さえその場に蹲る。

 傍から見たら変な奴だが、仕方ないのだ。


 あの時の愛美の笑顔はヤバかった。

 危うく気絶しそうなくらい可愛かった。



「ちょっと何やってんのよ」


 突然、声が降ってきた。


「こんにちは、翔。待った?」


「よ、よう、結菜。結構待ったぞ」


 俺は立ち上がり、答える。

 俺の言葉が不満だったのか、結菜は口をとがらせた。


「そこは『今来たばっかりだよ』とかなんとか気を遣って言うもんじゃないの?」


「いや、お前相手に気を遣ってもしょうがないだろ」


 こいつとは一年の時からの付き合いだ。

 こうやって二人で出かけることも初めてじゃない。


「まあ、確かにそうね」


 結菜も言ってみただけなのか、特に気にした様子はない。


「で、今日はどこ行くんだ? この前みたいに買い物だったら流石に一日中は無理だぞ」


 あれはきつかった。

 次の日寝坊するくらい。


「あ、あれは悪かったわよ。……あんたを格好よくするのが楽しすぎて…」


「なんて? 最後の方聞こえなかった」


「何でもないわよ!」


「おわっ。いきなり大声上げるなよ」


 びっくりした。

 俺なんか悪いこと言ったかな。


「良かった。聞こえてなくて」


 結菜はなんかほっとしてるし。


 まあいいや。


「で、結局どこ行くんだ?」


「まあ、それは着いてからのお楽しみよ。さ、行くわよ」


「!」


 結菜は俺の手を掴むと、歩き出した。


 これ、結構ヤバい絵面じゃないか?

 彼女持ちの男が彼女じゃない女と手をつないで歩いている。

 知り合いに、ましてや彼女に見られでもしたら…。


 いや、フラグじゃないからな!


 こんなことは許される行為ではない。

 俺はこの手を振り払わなければならない、が、


「ふふ」


 こんなに嬉しそうな結菜の顔を見たら、振り払うことなんて俺にはできない。

 これは、結菜に悲しい思いをさせたくないという俺の我儘なのだ。


「ごめんな、愛美」


「どうしたの翔?」


「いや、何でもないよ」


 ごめんな、愛美。俺の我儘を許してくれ。




 *************


 ラストちょっと暗くなりました。

 全然メインヒロイン出てこない…ので、次は愛美視点の話にしようかなと思います。


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