第6話 親友

俺の親友は有名人だ。

少なくとも学年の八割は知っていると思う。


何故有名人なのか。

それは—


「翔!助けて!」


「待ってください、俊樹君!」


「おお。今日もやってんな」


朝から美少女に追いかけられるという、とってもラノベ主人公をしているからだ。


***********


「はぁ、はぁ。ありがとう、翔。助かったよ」


「別にこのくらいどうってことないさ」


朝から美少女に追いかけられていた親友—輪島わじま 俊樹としきを助けた俺は、追跡を逃れるために隠れた男子トイレで、二人で話していた。


「しっかし流石のラノベ主人公っぷりだな。朝から美少女に追いかけられるとは」


「やめてよ、その呼び方。それに僕はラノベ主人公じゃないし」


「しかも家にツンデレ妹がいるし」


「いや、あいつはツンデレじゃなくて単純に僕が嫌いなだけだって」


「どうだか」


そう、こいつには妹がいるのだ。

とびっきり可愛い子が。


俊樹はラノベ主人公のステータスのほぼ全てをもっている。

オタクで陰キャだが心優しく、空手を習っているので喧嘩も強い。しかも成績優秀ときた。


こいつをラノベ主人公と言わずして何という。


本人は頑なに否定しているが、学年の男子ほぼ全員が同じことを思っている…はず。


「そういえば、何で追いかけられるようになったんだっけ」


今朝こいつを追いかけていたのは、高崎たかさき 彩華さいかさんだ。男子の間では可愛いと人気がある。

そんな女の子に追いかけられるなんて、こいつは一体何をしたのだろうか。


まあ、大体予想はつくが。


「僕は別に何かした覚えがないんだけど」


「ホントに?

じゃあ追いかけられるようになった日の前日に何かなかったか?」


「うーん。確か、あの日はちょっと喧嘩しただけだよ」


「お前が? 何で喧嘩したんだ?」


俊樹が喧嘩なんて、初めて聞いた。

こいつは非常に温厚な性格だ。

喧嘩どころか、誰かと言い争いをしているところも見たことがない。


「いつもみたいにゲーセンに行ったら、女の子がおっさんに絡まれててさ。嫌がってたから止めようとしたんだ」


「さっすが主人公。もういい。ありがとう」


これだけで想像がついた。

おそらく、こいつはその時高崎さんを助けてしまったのだろう。

で、俊樹に惚れた高崎さんはお礼を言うために話しかけようとした。

だが、俊樹はなぜ話しかけられるのか分からず、結果として追いかけっこをしていると。

助けられて惚れるとか、高崎さんもラノベヒロインしてんなぁ。

てかこいつ、助けた時点で女の子が高崎さんか分からなかったのか?

あんなに有名なのに。


「助けた女の子の顔は見なかったのか?」


「いや、メガネかけてたし、髪が長くてよく見えなかったんだ。

別にその子可愛かったから助けたわけじゃないし」


その考え方やっぱり主人公だ。

ていうか、学校と見た目が違うとか、高崎さんもマジでラノベヒロインだな。


「時間もやばいし、そろそろ戻ろうか。流石にもう高崎さんも教室に戻ってるだろうし」


「そうだな」


流石主人公。

ここでしっかりとフラグを立てていく。



********




俺達はトイレの外に出た。

高崎さんの姿はない。


「うん。もう大丈夫そうだね。ありがとう、翔。助かったよ」


「どういたしまして。またなんかあったら言えよ」


「うん」


「さ、戻ろうぜ」


俺達は教室に向かって歩き始めた。

ところが、階段を登り切った瞬間、俊樹の表情は固まった。


「な、なんでまだいるの!」


「ああ、俊樹君。待ってください!」


そこには、高崎さんが待ち構えていた。

俊樹はくるりと踵を返し、駆け出す。

それを高崎さんは追いかける。


オタクⅤS美少女の追いかけっこが再び始まった。


「流石主人公。立てたフラグの回収は忘れないな」


俺は小さくなっていく親友と美少女の背中を見つめながら、そう呟くのだった。








**************



俊樹君にはモデルがいます。

多少変えてますが、基本ステータスはほぼ同じです。


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