第5話 休日
今日は、珍しく部活もデートもない日だ。
なので最近行ってなかった本屋に行くことにした。
「今月発売の本は…」
パソコンで本の新刊が出ていないか確認する。
一通り見てみると、二、三冊出ていることが分かった。
「よし、行くか」
今は、午後一時だ。
ゆっくり買ってきても、三時ぐらいには帰ってこれるだろう。
「愛美を誘おうかな…」
うーん。
でもこれは俺の趣味だからなあ。
流石に俺の趣味にまで付き合ってもらうのは申し訳ない。
やっぱ一人で行こう。
「ちょっと本屋行ってくる」
「晩御飯には帰ってきなさいね」
母さんに声をかけ、家を出た。
*********
今俺は最寄りのショッピングモールを歩いている。
目当ての本も買えたし、特にすることはない。
ただぶらぶらと歩いているだけである。
「あ、そういえば愛美の誕生日来月だったな」
プレゼントは何がいいかな。
去年は何をあげたっけ。
直接聞いてみようか。でもサプライズの方が嬉しいかなぁ。
「結菜あたりに聞いてみるか」
というか、仲がいい女子が結菜ぐらいしかいない。
「おっ」
噂をすれば、結菜が服屋の前で立っていた。
「よう、結菜。何やってんだ?」
俺が話しかけると、結菜はビクッと肩を震わせた。
「こっこんにちは、翔。何やってんのって、普通に服を見てるだけよ」
「ふうん」
服か。
そういえば最近買ってないな。最後に買ったのはいつだったか。
そうだ。
そろそろ新しい服も欲しいし、結菜に選んでもらおうかな。
「結菜、お前って服選ぶの得意か?」
「えっ。ま、まあ人並みには出来ると思うけど」
「じゃあさ、俺の服選んでくれよ」
「えっ」
「いや、そろそろ今持ってる服が古くなってきてさ。もともと兄貴のお下がりだし。
自分で選ぼうにも、俺はあまりそういうのが得意じゃない。
だから、俺が下手に選ぶよりも、お前に選んで貰った方が確実かなって」
「いいわよ。あんたの服を私が選んであげればいいのね!」
「ああ、頼む」
結菜のテンションが高い気がする。
「これは…翔を私の好きな格好にさせれるってことでは…」
俯いて何事か喋っていたが、俺の耳には届かなかった。
「えっと、これとこれ。あ、あとこれも。うーん。このブラウスもいいわね」」
俺の服を選んでいる時、結菜は滅茶苦茶生き生きしていた。
「じゃあ翔、試着して着て」
結菜が両手に持った服を差し出してくる。
「えっ。これ全部?」
「つべこべ言わないの。それに、実際に着たらどうなるか見ていたいし」
「分かったよ」
「ほら、早く早く」
結菜に促され、俺は試着室に入っていった。
えーと、まずはこの襟付きシャツとデニムパンツのシンプルなやつだ。
別に複雑な服でもないのでさっさと着替える。
「着替えたぞ」
「じゃあ、外に出てきて」
俺は試着室のカーテンを開け、外に出る。
「ッ」
出てきた俺を見た瞬間結菜は顔を赤らめ、そっぽを向いてしまった。
え、そんなにダサかった?
「しょ、翔、これはダメよ。絶対ダメ」
「似合ってない?」
「そ、そうじゃなくて…。逆よ。似合い過ぎなの!
いつも格好いいのに、こんな服着たらさらにモテちゃうじゃない」
ん?なんか格好いいとか聞こえた気が…。
まあ、気のせいだな。
「と、に、か、く。その服はダメ。着替えてきて」
「えっでも、これお前が選んでくれた服じゃ…」
「いいから、ダメなの!
そうだ、あの子にも伝えておかなくちゃ。翔にはこの格好はさせちゃダメって。
ほら早く着替えて、次の服いくわよ」
「へいへい。分かりましたよ」
それから今度は結菜の服選びに付き合い、結局家に帰ってきたのは七時を過ぎた頃だった。
俺は結菜に家まで送ると言ったのだが、「遅くなっちゃったのは私のせいだから、そこまでしてもらうのは悪いわよ」と断られてしまったため、一人で帰った。
夕食と入浴を済まし自分の部屋に戻った俺は、無意識に買ってきた本を読もうとして伸ばしかけた手を引っ込めた。
明日は月曜日で学校があるため、本を読んでいる時間はあまりない。
あの時結菜に声をかけなければ、本を読む時間はあっただろう。
でも、結菜と服を選ぶのはとても楽しかった。
「こういうのも、たまには悪くないな」
俺は買ってきた服は入った袋を見つめながら、そんなことを呟くのだった。
その頃の結菜
「あんなの反則じゃない。格好よすぎよ。それに優し過ぎ。私の買い物まで付き合ってくれて…。帰りには送ろうかって言ってくれたし…。
やっぱり、好きだなぁ」
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