第3話 デート?

今日は愛美と一緒に図書館で勉強する約束をしている。

まあ、俗に言うデートだ。


本当は遊園地とか、ショッピングモールとかに行きたいが、俺達は受験生だ。ずっと遊んではいられない。


というわけで一緒に勉強することにしたのだが、



「翔、詩織ちゃんの面倒みてね」



儚くもその願いは砕け散った。


悪魔母さんの一言によって。




詩織ちゃんは俺の兄貴の娘だ。

俺と兄貴は歳が八つ離れていて、もう成人している。

そしてあろうことか、結婚年齢が上昇しているこのご時世に二十歳で結婚したのだ。


そんな兄貴の奥さん—義姉さん?の優香さんは滅茶苦茶美人だ。何で兄貴と結婚したかわかんないぐらい。


まあ、俺は愛美一筋だけど。


ごほん。話が逸れた。

で、その兄貴と優香さんの間に生まれたのが、この詩織ちゃんである。

母親である優香さんにそっくりで目鼻立ちが整っており、将来有望な顔立ちをしている。


兄貴夫婦は時々忙しい日があり、そういう日は実家に詩織ちゃんを預けるのだ。


で、丁度その日と俺達のデートが重なり、さらに母さんの用事も重なったというわけである。



「いや、詩織ちゃん預かるなら母さんが何も無い日にしてくれよ。俺、今から用事あるんだけど」


「何よ、用事って。そんなに大事な用事なの?」


「当たり前だ。なんてったって愛美とのデートだからな」


「ほう。仲が良いのはよろしい。でも、私も外せない用事なのよね。あんた、詩織ちゃんと一緒は嫌なの?」


「い、嫌ではないけど。でも」


出来れば二人きりがいいが、詩織ちゃんがいる手前、はっきりと拒絶できない。


「はっきりしないわね。じゃあ、詩織ちゃんに聞いてみましょうか」


「え、ちょっ」


「しーおりちゃん。詩織ちゃんは、私と翔、どっちとお遊びしたい?」


詩織ちゃんは無邪気な笑顔で答える。


「しょーにいがいい」


「ぐっ」


「だって。ほら、何か言いなさいよ」


俺は無駄だと分かっているが、ダメもとで説得を試みる。


「詩織ちゃん、俺はこれから大事な用事があるんだ」


それを聞いた詩織ちゃんは大きな瞳を潤ませ、


「しおとあそぶの、や?」


上目遣いで聞いてくる。


「やじゃないけど…」


「しょおにーちゃ、やなの?」


「うっ」




無理だ。

こんな目で見つめられたら、拒絶なんてできない。


「…分かった。詩織ちゃんは俺が面倒見る」


「助かるわ~。じゃあ、私もう行かなきゃいけないから、よろしく!」


そう言って母さんは扉の外に消えた。


俺は恨めし気に母さんの出ていった扉を睨んでいたが、くいくいっと袖が引っ張られた事で我に返った。


まあ、こうなってしまったものは仕方ない。

ちゃんと説明すれば、愛美も許してくれるだろう。


「よし。俺達行くか!」


「うん!」


とりあえず、愛美と約束した公園に向かうことにした。




*********


公園で詩織ちゃんの相手しながら待つことしばし。


「翔くん、お待たせ」


愛しの彼女がやって来た。

いつもは見られない私服姿だ。


うん。言葉では言い表せないぐらい可愛い


「いや、全然待ってないから大丈夫。

その服、似合ってる。めっちゃ可愛い」


「あ、ありがとう」


愛美は顔を伏せてしまった。

可愛い。


「その子、どうしたの?親戚の子?」


流石、察しがいいな。


「いや、親戚じゃなくて、兄貴の子供」


「えっ」


「ごめん。この子を連れて来た理由も含めて全部説明するよ」




俺は詩織ちゃんを連れて来た理由など諸々を愛美に説明した。


「というわけだ。

ごめんな、せっかくのデートの日なのに」


「ううん、いいよ。それに、この子に誘われちゃって、断れなかったんでしょ? 翔くん優しいから」


「うっ」


見透かされている…。


「デートなんていつでもできるし、それに私は翔くんと一緒にいられればそれでいいから」


またさらっと恥ずかしいことを…。

でも分かってくれて良かった。

埋め合わせも含めて、次のデートは気合を入れ計画しよう。


「ありがとう、愛美。また今度、デート行こうな」


「うん!楽しみにしてる」


俺はつまらなそうにしている詩織ちゃんに声をかける。


「詩織ちゃん、今日は俺とこの人と遊ぼうな」


「このひとだあれ?」


「この人は俺の…」


一瞬何て返そうか迷ったが、三歳児相手にごまかしてもしょうがないし、何より隣の愛美が怖い。


「この人は俺の彼女の、愛美だ」


「かのじょ?」


「そ、彼女。恋人だよ」


「しょ、翔くんが恋人って言ってくれた…」


なんか隣の彼女が喜んでいる。

愛美は直ぐに復活すると、笑顔で詩織ちゃんに話しかけた。


「愛美です。よろしくね、詩織ちゃん!」


「うん。おすなあそびやりたい」


「わかった。行こう!」


「愛美、ストップ」


詩織ちゃんと手をつないで砂場に行こうとする愛美を呼び止める。


「どうしたの? 翔くん」


「愛美。砂遊びするなら、その服、汚しちゃまずいだろ。一旦家帰って着替えてきたほうがいい」


「あっ」




*********



「すぅ、すぅ」


「詩織ちゃん、寝ちゃったね」


「ああ。疲れたんだろう」


俺は寝てしまった詩織ちゃんを背負って、愛美を家まで送っていた。


「ごめんな、ホントに。我が家の事情に合わせてもらって」


「ううん、大丈夫だよ。詩織ちゃんと遊ぶの楽しかったし」


愛美は笑顔で言ってくれた。

なんていい子なんだろう。


「それに、ね。翔くんと子供ができたら、こんな感じなのかなって」


「確かに、子供ができたみたいだったな」


ん? いま変なこと言わなかった?


「しょ、翔くん。気が早いよ! 子供って、私たちまだ中学生だし!」


「愛美が先に言ったんだろ!いや将来愛美との間に子供できたらいいな~とは思ったことはなくはないけど、今のはそういう意味じゃないって」


「っ! 将来ってこれからも一緒にいてくれるんだ…」


「当たり前だ」


傍から見れば恥ずかしいであろう話をしていたら、気づけば愛美の家の前まで来ていた。


「じゃ、じゃあね翔くん!また学校で!」


「ああ、じゃあな」


愛美は急いで家に入っていった。

俺は踵を返し、自分の家へと向かう。


「子供もいいかもしれないな」


俺の背中でスヤスヤと眠る詩織ちゃんを見て、そう思った。

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