本当の話①
「本当の話をしましょう」
「はじめは保育園に通っていたころの話です」
「お遊戯会か何かで劇をすることになって、一人一役あてがわれて、セリフや演技を覚えなきゃいけなかったんですよ」
「体を動かすのが苦手な子やセリフを覚えるのが苦手な子がいて、一生懸命練習していました」
「私はというと、どちらもあまり苦手ではなかったと記憶しています」
「けれどね、どうしてもいやだったんですよ。練習するのが」
「私は真面目ないい子だったのですけれどどうしても嫌だった」
「それでも私は練習をしましたよ。真面目ないい子でいないといけないから」
「それはもう泣くほどつらかったですよ。比喩とかじゃなく本当に」
「先生たちは困っていましたね。どうして私が泣いているのかわからなかったみたいで」
「そのとき私は気づいてしまったんですよ。このまま生きていくのって地獄だなって」
「それから、歳を重ねるにつれ色々なことがありました」
「だんだん真面目でいい子なメッキが剥がれて親や友人、先生たちに迷惑をかけてしまいました」
「これが大体10歳から17歳くらいですかね」
「このころは、友人たちは一人残らず私の陰口を言っていると思っていたし、先生たちは自分がろくでもない人間だとわかっていると思ったし、街ゆく人々は皆、私のことを嗤っていると思っていたし、親は私のことを失敗作だと嘆いていると思っていました」
「特に、親は私と一緒にいる時間が長い分、醜い私のことを誰よりも知っているから、誰よりも私のことを嫌っているはずでした」
「夜に自分の部屋にいると父と母のしゃべり声が聞こえてきて、私がどれだけ愚かで醜く、浅ましい人間なのかということについて話あっている気がしました」
「あの時は本当におかしくなりかけていましたね」
「最後には、親は自分の部屋に監視カメラを仕掛けているはずだとか思い込んでいました」
「じゃあ、友人や先生や親から認められる人間になれよって話なんですが、そういうふうにはなれませんでした」
「私の奥底にある醜く愚かな怠惰な部分を克服することはできなかったのです」
「長くなってしまいましたね」
「今日はここまで」
「気が向いたら明日も来てください」
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