手紙

@taimatsu

死に損なった

「私、自殺しようと思ってたんですよ」

「結局できなかったんですけどね」

「私、自殺に向いてなかったんですかね」

「真面目に遺書を書いて、誰にも迷惑をかけないよう計画を練って、真剣に自殺しようとしてたんですよ」

「でも実際は、どうやったって遺書なんて書けなくて、どの自殺方法も苦しそうで嫌で、それでも覚悟を決めて首つりをしようとしたんですよ」

「自分の部屋のクローゼットで、遺書も書かずに、自分が死んだあとのことなんて全部置いといて」

「ホームセンターで買ってきた釘を壁に打ち付けて、ロープをかけて椅子に乗ったんですよ」

「それから首に縄をかけ、ゆっくり足を椅子から降ろしました」

「それはもう本当に苦しかったですよ。首つりは気持ちがいいなんて嘘っぱちです」

「みっともなく私はあわてて椅子の上に戻りました。」

「その時やっと気づきました。私は別に死にたかったんじゃあなくて、生きたくなかったんですよ」

「当たり前のように学校に行って、授業を受けて、友達と喋って、ご飯を食べて、また授業を受けて、家に帰って、そういうのが心底いやだったんです」

「ここ、中二病やんって笑うところですよ」

「それ以来、私は死にたいなんて迂闊に思えなくなってしまったんです」

「これで私の話は終わりです。長々と付き合っていただいてありがとうございました。それじゃあどうかお元気で」

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