11.無謀

 前担任を戦闘実習で叩きのめし、辞職にまで追い込んだ私ですが、代わりの担任が女性であることで心機一転。

 心晴れやかなスタートを切りました。



「はじめまして。私はレイア・シルエスタ。前任のゲイル・マーシェルに代わり、このクラスの担任を勤めます」



 自己紹介を終えるなり、桃のショートボブを揺らし、私のほうを睨みつける。

 えっ、初日から、ましてや会ったばかりでヘイト集めてるんですか? 私、もしかして、なにかやっちゃいましたか?



「あなたがセリア・リーフですね。まったく……あなたのせいで、担任なんて面倒なことを……」



 なんでしょう、この違和感は。

 見たときの雰囲気と、口調や仕草が噛み合わないと言いますか……

 人間とは、ある程度見た目にも性格などの要素が反映されるものですが、彼女に関しては、まったくの逆。

 顔を作っているのか、キャラを作っているのかはわかりませんが、警戒するに越したことはないでしょう。



     ◇



「あの……また戦闘実習ですか?」



 私たちは、レイア先生からの指示で、再び闘技場へと集められました。



「それはそうでしょう。私は、あなたたちの実力を知らないのですから」



 それはそうかもしれませんが……。そんな、さも当然みたいな言い方されてもね?

 私、さっきの実習でかなり動いたので、かなりヘトヘトですよ。思っていたよりは体力あるみたいですけど。

 この身体がどれほどの身体能力を持っているかも、のちのち把握していかねばなりませんね。



「ですが、セリア・リーフの実力はよくわかっています。あの『絶対堅牢』と呼ばれていた筋肉バカをねじ伏せたのですから」



 なんですか、その無駄にカッコいい二つ名。

 私もなにか欲しいですよ。『超絶美少女』とか、『唯一無二の可愛さ』なんてどうですか? ダメですかそうですか。



「これから、セリア・リーフには、九九人の相手をしてもらう」

「いや、それはいくらなんでも……」



 『九九人と壁』の名前でクイズ番組作っちゃいます? いや、誰が絶壁ですか。

 それにしても、九九人を相手するのはさすがの私でも難しいですよ。

 スピードアップ系の《言霊》を使用してもいいのであれば、「四〇秒で始末しな!」と言われてもできるんですけどね。



「私は《言霊》を使ってもいいのですか?」

「もちろんです。素でそんな人数を相手にできるわけがないでしょう。どこのファンタジー世界ですか」



 ここってファンタジー世界ですよね? いや、この世界の人からすれば、これが普通なわけでして。

 私たち目線での外国からすれば、日本が外国になるのと同じですからね。

 まあ、《言霊》の使用許可も出たことですし、派手に行くぜー!



「わかりました。一対九九、受けて立ちましょう」



 私の実力が知れ渡れば、なにかしらでの抑止力となるでしょう。



     ◇



 私は今、とても後悔しています。

 九九人って、こんなに多かったですっけ? 九人のグループが一一個ですよね……。こんなに多いんですか?

 最強|(自称)を冠する私が、「人数が多いので無理です」なんて、末代までの笑いものですよ。私が末代ですけどね!

 ふぅ……やりますか。

 クラス全員を相手取るのであれば、当然ながらアイリスがいるわけでして、やはり気が引けると言いますか……

 レイア先生からの指示で、相手は死なない程度に叩きのめせと言われてるんですよ。つまり、アイリスをボコボコにしなければいけないのです。

 わざと負けるのもありですが、それでは彼女が納得しないでしょう。

 ここは誠心誠意やらせてもらいます。



「さあ、九九人かかって来なさい。――もちろん全員で一斉に」



 私がそう言った瞬間、辺りがざわ……ざわ……とし始めました。普通に考えれば無理ですよね、はい。

 しかし、私は普通ではないので。

 ここで弱いところを見せてはいけません。常に凛としていなければ。



「一斉にだとよ……」「本当に大丈夫なのか?」「でも、あのリーフだからな……」



 配慮はうれしいですが、あのリーフですからね。遠慮せずに来てほしいものですが。



「じれったいですね! 私からいかせてもらいますよ」



 私の宣言に、皆が一様に模擬剣を構える。

 相手が女だからと躊躇していては、敵が女であった場合は戦わないつもりですか? そんなわけにはいきません。

 こんなところでも男尊女卑があるとは……。いつの世も男女平等など叶わぬ夢なんですかね。

 構えたはいいものの、一向に動く気配がない。まるで、私が動くまで待っているかのよう。



「なにを怖がっているのですか。なにを躊躇ちゅうちょしているのですか。私のことを本当の敵だと思い向かってきなさい。親のかたきだと思い向かってきなさい。あなたたちが動くまで、私は動きません。これが最大のハンデです」



 私からの攻めた言葉に動かされたのか、全員が一斉に走り出す。

 しかし、どうしてもアイリスだけは動かない。

 なにをしているのです、こんなことでは騎士団ギルドでも名折れとなります。

 親を、友を、やがて手にかけねばならないときが、やって来るかもしれません。

 優しさは、ときに自身に牙を剥くのです。

 優しさは、いつなんどきでも素晴らしいわけではないのです。

 私は、アイリスが相手だろうと容赦はしません。敵になれば、当然倒し……倒し、ます。

 ――できるわけ、ないでしょう……!



「ようやく来ましたか。私は、皆さんのためであれば、悪者にだってなって差し上げましょう」

「よし、囲め! 周りから一斉に!」「ああ、わかった!」



 さあ、ショータイムです。

 レディース・アンド・ジェントルメン! 今から、私とっておきの脱出マジックをお披露目いたします。

 これから起こるはほんの一瞬の出来事。瞬きなしでご覧ください。



「やったか!?」「お前、それフラグってやつじゃ……」

「おや、皆さんなにをやっているのです?」

「なっ……! いつの間に!?」



 背後に現れた私の姿に驚き、目を見開く皆さん。

 では、今回のマジックのタネ明かしをば……

 これは非常に簡単。さあ、唱えましょう。



「《暗箭傷人あんせんしょうじん》、影を行き来することが可能な《言霊》です。皆さんは、私に逃走経路を用意してくださったようですね?」



 《暗箭傷人》とは、闇討ちを仕掛けたり、相手を密かに狙うこと。

 私を逃がさまいと大人数で囲われることで、私の周りには大きな影ができました。

 しかし、これにもデメリットはありまして、自身より小さい影には入ることができないのです。先ほど私が言ったように、これは移動経路。自分よりも小さい通路は通れないのと同じです。



「さあ、これからどうします? あ、このままでは面白くないので、スピードアップ系の《言霊》は使わないことにします」



 ……とは言ったものの、なにも考えていないのが正直なところ。今までは、スピードアップからの瞬殺|(殺してはいない)だったので、いざそうなると手詰まりなんですよね。

 ――いいことを思いつきました。



「敵意を持たねば、私には勝てませんよ? それだけ倒したいという欲求がなければ。いきます――《一騎当千》」



 ここで、あえて敵対させたのには、理由があります。

 それは、のちにわかることですが。



「どうなってる! 死角から狙っても、全部捌かれる!」

「ここで私からひと言。『仕事と敵は、近いものから片づけなさい』。仕事の締め切りと、敵との距離は、近いほど厄介です」



 ここで皆さんの下に沈黙が。

 素晴らしい言葉すぎて感動したんですよね? ふふっ、わかってますよ、皆まで言わないでください。

 さーて、殺戮ショーの始まりだぁー!

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