10.対決

 戦闘では先手必勝! 一気に片づけます!



「さあ来い! 教師になってからというもの、負けたことがないからな!」

「言ってられるのも今のうちですよ。――《電光石火》!」



 速攻でゲイル先生へと迫る。

 試合前に渡されていた模擬剣を振るうも、さすがは戦闘に慣れている相手。紙一重でかわされる。



「それがお前の《言霊》か! 動きが単純だから、ないも同然だな!」



 《電光石火》は、足を速くするのではなく、踏み出した際のスピードを上げるもの。

 一気に近づき、攻撃を当てねば意味がありません。

 先生の瞬発力に加え、昨夜の反動による痛みが残っているために、思いどおりに動けない。次の行動が一拍遅れてしまう。



「どうした! さっきの威勢はどこに行った!」



 チッ……。いちいちかんに障る男ですね。

 こうなったら、一気に片づけてあげますよ。



「みなさん、下がっていなさい! ――《一網打尽》!」



 目の前に嵐でも到来したような衝撃に、闘技場の壁にはヒビが入り、使用者である私も吹き飛ばされそうになる。

 それなのに、先生は持ちこたえている。

 なんて化け物ですか!

 そりゃあ、あれだけ強気なわけです。バフがないため威力は低いとはいえ、山すら吹き飛ばしたものを受けきるのですから。

 私は、《空前絶後》の効果で身体への損害はありませんが、他の方であれば木っ端微塵だったことでしょう。

 ……しかし、《一網打尽》を耐えるような相手に太刀打ちできるのでしょうか?

 ここまで来たら手加減はしません。



「――《迅雷風烈》!」

「はあっ!? 《言霊》を三つも持ってんのかよ!」



 相手に動かせてはいけません。動く隙を与えてしまえば、敗北まっしぐらです。

 《空前絶後》は、身体への外傷、たとえば刃物による傷や概念的な攻撃を防ぐものであり、殴打は外傷には入らず、痛みを受ける。

 もちろん、殴打とは言ってもつちなどで殴られたものは防げます。対象外を簡単に言えば、パンチやキックなど。

 今回は木刀。痛みこそあれど、それでは傷がつかないため、発動しないというわけです。

 重ねがけはなるべく使いたくありませんし、かといって、まともに戦っても勝つ見込みはありません。……いや。



 ――そうだ、勝てないのなら、負ければいい。



「見つけました。あなたに勝つ方法を!」

「そんなこと言ってるが、どの《言霊》も俺には効いてないけどなぁ!」

「ええ、《言霊》が効かないのであれば、単純に戦えばいいだけです」



 私が見つけた勝利への道。それは――



「――《未来永劫》! そして、《言霊》を封じよ――《夏炉冬扇》!」

「なんだそれは? また意味のないことをしているのか?」



 お馴染みのコンボで《言霊》を封じる。

 これで勝利への足がかりを作れました。

 あとは――やられるだけです。



「先生こそ、なかなか攻撃しませんね。私に怯えているのですか?」

「好き勝手言いやがって! それなら、今すぐにでもギブアップさせてやるよ!」



 これから攻撃が来ます。……しばし耐えるのです、セリア。

 やはり、《空前絶後》は発動しない。

 痛みが伝わってくる。この世界で初の痛み。

 身体が壊れてもおかしくない。腕が、脚が、身体中が悲鳴をあげている。

 もう無理だ、このままでは死んでしまうと。



「せ、セリアさん! わたしも加勢を!」

「そこにいなさい、アイリス!」



 私が叫んだことで、アイリスは肩を震わせ、足を止める。

 身体が動かない。ピクリとも動かせない。ですが。



「このときを、待っていました……!」



 身体が動かなくなるまで攻撃を受け続けた理由。それは、



「これで……終わりです。――《本末転倒》」



 ここで戦況を覆すため。



「うっ、ぐっ……。お前、いくつ《言霊》を持ってるんだ……?」

「うーん……いくつでしょう? 言うなればすべてですけど」



 『無傷の身体』と『動けなくなるほどの痛みを受けた身体』の状態を入れ換えました。

 どれだけ攻撃を通さなくとも、強制的に痛みを押しつけられたなら、さすがに耐えられないでしょう。



「忘れてるみてぇだが、俺だって使えるんだぜ? 残念だったな! ――《本末転倒》!」



 ここで先生は目を見開く。――自身の《言霊》が使えないから。



「どう、いうことだ……。《言霊》が使えない……!?」

「先生、あなたは負けたんです。自分の生き方に」

「なん、だと……?」



 彼の失敗とは、『傷がつくことに意味がある』と考えていることです。

 つまりは、傷がつけば攻撃が通った。概念的なものは意味を為さない。

 そんな考えの下で戦ってきたことが敗因となりました。



「先ほど、《未来永劫》と《夏炉冬扇》の二つをかけましたが、それによって《言霊》を封じました」

「……あれか……!」



 ようやく気づいたようですが、もう遅いです。

 私に勝つ術は残っていません。



「あなたには、教室で見たときからなにかあると思ってはいましたが、生徒が動けなくなるまで叩きのめすまでの戦闘狂だとは。目の色が変わりすぎですよ」



 さすがにそこまでは予想できませんでした。

 ですが、彼は潰しておかねばならないと、私の勘が囁いていました。



「自分に自信があるあなたであれば、誇りにしている教師職を捨てるまで言い出す可能性も考えられました」

「っ……そこまで考えて……」

「ええ。『力はパワー』なんて黒板に書いているほどですから、脳筋だとは思いましたけど」



 私から散々に言われたことで、先生は歯噛みする。



「あなたは私を下に見すぎた。相手の情報を事前に集めなかった不手際。そして、《全知全能》である私を相手にした運の悪さ」



 すべて。すべてです。

 私を指名した時点で彼の敗北は決定していました。

 いえ、私と出会ったところからですね。

 《一刀両断》でバサッと斬り捨て御免してもよかったのですが、無意味な殺生はしたくないですからね。

 心優しい私に感謝してほしいものです。

 このまま彼が担任で、戦闘関連の授業でアイリスが滅多打ちされても困りますから。

 これは彼女を護るためでもあります。アイリスへの危険は私が排除します。



「さあ、どうします? 先生」

「くそっ……俺の負けだ」



     ◇



「いやぁ、さっきのセリアさんカッコよかったです!」

「ふふっ、ありがとうございます」



 ゲイル先生に勝利し、戦闘実習は終わり。

 今は教室に戻っている途中なのですが、私は物足りなさを感じていました。



「そういえば、この学校って、入学式ないんですね……」

「人数が人数ですからね。時間がかかりすぎちゃうみたいで、ここはやらないそうです」



 入学式。私が学生のとき、入学式の日はいつも病院。

 小、中、高と三回もチャンスはあったのに、三回とも入学式当日に病状が悪化。参加できない状態に。

 入学式に参加していなければ、ボッチが確定すると言われています。私もまさにその洗礼を受け、二週間ほど経ち登校した日には、晴れてボッチとなりました。

 今ではアイリスがいるので問題ないですけど。



「でも、初日から担任の先生が替わるなんて、わたし初めてですよ」

「普通は、初日に辞めなければいけない理由ができるわけないですからね」



 しかし、次の担任になり得る方はいるのでしょうか?

 人材不足ではないようですし、なんとかなるとは思いますが。

 教室に到着し、チラリと中を覗いてみると、教壇には一人の女性が。

 もしかしてですが、新担任でしょうか。担任ガチャ大勝利ですね!

 物腰の柔らかそうな方で安心しました。彼女であれば、先ほどのようなことにならないでしょうし。

 本日より、楽しい楽しい学校生活の始まりです!

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