第3話 7分の寝坊と妹
カーテンの隙間から覗き込む太陽の眩しさで、僕、
枕元にある目覚まし時計を確認すると、8時7分……。7分!?
僕は慌てて飛び起きる。――そして、冷静になった。
毎朝8時00分に目覚まし時計が鳴るように設定している。しかし、今日は確実に鳴っていなかった。壊れてしまったのだろうか。
とにかく、遅刻は免れた。
朝食は、昨日冷凍しておいたハンバーグを温めたものにした。レンジに入れて温めている間に目覚まし時計を確認すると、ベルの部分が壊れていた。目覚ましをセットした時間になってもベルが鳴らないのだ。学校帰りにでも新しいものを買ってこよう。
「おーい、起きろ!」
ひとまず時計をベッドに投げ捨て、2階の隅にある部屋の扉をノックした。扉には乱雑な字で「勝手に入るな!」という張り紙がされている。
「おーい!」
「うっさい!」
と声がしたと同時に扉が勢いよく開いて、僕の顔面にクルーンヒットした。
「いでぇッ!」
「あ、ごめん」
部屋から出てきたのは、僕の妹である
眼鏡はブルーライトカット仕様のPC用眼鏡だ。本人曰く、視力は10.0あるらしいので度は入っていないらしい。
僕は、彼女の存在を数カ月前まで知ることはなかった。
突然、家を訪ねて「私はあなたの妹です」と言われて信じられるか。――というのは一般的な話。だが、僕は違った。現実離れな出来事かもしれないが、僕には受け入れるしかない事情があった。
最初の頃はお互いに馴れない部分が多くあったが、1週間も生活を共にすれば、なんとなく相手のことが理解できる関係にはなっていた。
「ごはん、できたの?」
「ああ、そうだ」
僕はズキズキと痛む鼻を抑えながら答えた。
「なあ、火恋。また夜中まで起きてたのか?ひどいクマが出来てるぞ」
「違うわ。オールしたのよ」
「あのなぁ、学校で眠くならないのか?」
「学校には行ってない。というか行く意味がないわよ」
フン、と胸を反らして自慢する。
「そういえば、そうだったな」
火恋はアメリカで、とある名門工科大学を14歳という年齢で入学した。
妹はスーパーエリートなのだ。
そんな彼女が日本の学校、しかも年齢的な理由で中学校だなんて、本人からしたら馬鹿にされているもんだろう。
そういうわけで、火恋は学校に行っていない。しかし、学校に転校手続きは取っているので、日本での火恋の扱いは中学生ということになっている。
「でもな、学校に行ったらどうだ?勉強はしなくてもいいから友達ぐらい作れよ」
「……お腹空いた。ごはん食べる」
火恋は急に不機嫌になって、僕を避けて1階へ向かった。
アメリカでの火恋には――本人曰く――、友達が多くいたそうだ。だったら、日本でもすぐ友達は作れるはずだと以前言ったことがあるが、無言でボディーブローを喰らったことがあった。そんな訳でこの話はあまり長くはせず、僕も1階へ戻り、朝食を摂ることにした。
『今日の早朝2時、道端に止めていた車が奪われる事件が発生していました。当時、2人の男女が乗車しており、犯人は拳銃を取り出して脅し、そのまま車を奪って逃走したとのことです。未だ犯人は見つかっておらず――』
テレビをつけるとそんなニュースが流れていた。
「車を奪うのに拳銃なんて使うか?アメリカじゃあるまいし」
ハンバーグを頬張りながら呟く。
「夜中に、男女2人きりで、道端に停車……カーセックスでもしてたのかしら?」
「ブファ!!!」
思わずハンバーグが口から飛び出てしまった。
「何してんのよ!汚いわね!」
「おまえのせいだわ!」
思っても言うなよ!心に留めておけよ!
「まったく、カーセックスって言っただけで動揺してるなんて、日本の教育はどうなってんのよ」
「どうして教育にケチ付けるんだ?」
そんな単語を食事中に発する教育の方がなってないだろ。
「どーでもいいじゃないそんなこと。ごちそうさまでした。……夕飯の残りものだったけど」
「文句があるなら朝飯は無しだぞ」
「すみません。とても美味しかったです。また食べたいです」
火恋は姿勢を正す。
「それじゃあ、食器を台所へ持っていきなさい」
「はーい」
不服そうに返事をするが、台所へ食器を持っていく。
「それじゃあ、僕は家を出るから戸締り頼んだぞ」
「はいはい、分かったわよ。毎日うるさいわね!」
「前科があるだろ」
火恋が家に来てから間もなく、家の戸締りを頼んだところ、空き巣に入られたことがあったのだ。
幸いなことに、ちょうど僕が帰宅したタイミングだったので撃退することができた。侵入経路は律義にも玄関。お入りくださいとばかりに、鍵は閉まっていなかった。
因みに、犯人は未だ逃走中で、目星も立っていないそうだ。
僕は妹のセキュリティ管理について不安を募らせつつ、学校指定の鞄を持ち、家を出た。
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