夏祭り

 そんな事があった週の日曜日、僕は坂口と港にいた。坂口に夏祭りに誘われたのだ。

港には、たくさんの屋台が軒を連ねている。

昼間の暑さが、まだ残っていて汗が頬を伝う。

はしゃいでいる子どもたちの声。

浴衣を着ている人達。

ソースの匂い。

昔、兄と来たことがあるなと、感傷に浸っていると、

「うおっ。焼きそば食べようぜ!めっちゃいい匂い。」

坂口が僕にキラキラした目を向ける。待ち切れないという様子だ。

坂口の怪我は幸い、骨折はしていなかったらしい。

「うん。行こう!」

坂口と一緒に焼きそばの屋台に向かう。

焼きそばを堪能した後もチョコバナナや、ベビーカステラを食べた。射的。ヨーヨーつり。金魚すくい。と順々に回っていき、夏祭りを楽しんだ。金魚すくいでは1匹だけ、すくうことができた。坂口は1匹もすくえなかったので悔しがっていた。

黒くて大きい金魚だ。尾びれを華やかに揺らしている。

屋台の灯りが水に反射してキラキラしている。

そういえば、昔、兄にとってもらった金魚によく似ている。その金魚は体が弱かったらしく1ヶ月ほどで死んでしまった。

泣きながらお墓を作る僕を、兄が優しくなぐさめてくれた。

懐かしいな。この金魚は長生きするだろうか。

「青木ー。そろそろ船着場行かね?花火まで、あと10分くらいだし。」

坂口が、あんず飴をくわえながら僕を見る。

「あー。そうだね、そろそろ船乗るか。」

花火は海上で行われるため船に乗って見ると、海面に花火が映ってすごく綺麗らしい。

僕は船の上から花火を見たことはないけれど、坂口は船を持っている祖父に頼んで、毎年船に乗せてもらっているらしい。

坂口と船に乗って花火を見ることを父と母に言うと、兄の事もあるため案の定だめだという返答だった。

僕は1週間かけて、2人を説得した。

必ず救命胴衣を着るから、船上で走らないから、お願いだよ、と言い続けると、渋々承諾してくれた。

船着場に行くと坂口の祖父が大きく手を振ってきた。Tシャツにハーフパンツを穿いていた。坂口と2人で乗り込むと、すぐに船は出発した。

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