祖父の懐中時計

 その夜、僕は夢を見た。亡くなった祖父が出てきて、僕が落とした懐中時計について話してくれた。

あの時計は祖父が子どもだった頃に海で拾った物らしい。波打ち際に落ちていて、ひどく錆びていたため、もう動かないかと思ったが修理したところ正常に動き出したのだという。

祖父いわく、あの時計には何か不思議な力があるのではないかと思うらしい。その理由を聞くと、祖父は遠い昔を見つめるような目をして、語ってくれた。

祖父は懐中時計を拾った1ヶ月ほど前にちょうど、友人を海の事故で亡くしており、喪失感を抱えていた。

弔いのために別の友人と共に行った海で、ある少女を見た。顔は見えなかったが、不思議と目を引く少女で、目を離せずにいると海にスっと消えていった。隣にいた友人に少女を見たかと聞くと見ていないと友人は首を横にふった。幽霊を見たかと思い、ゾッとしたが、少女が消えたあたりを見ると例の懐中時計が落ちていた。

その少女が落とした物ではないかと祖父は思ったらしい。

そして、その懐中時計を何気なく手に取ると不思議と悲しみがゆっくり溶けていくような気がしたのだと話してくれた__。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る