坂口の怪我

 保健室に入ると、冷房の涼しい風が体を包み込んだ。

「冷房最高ー!」

坂口は怪我をしていない方の手を広げた。

「先生いないね。」

どこに行ったのだろう。待っていればすぐ帰ってくるだろうと思い、椅子に座って待つことにした。

「指痛い?」

「さっきより腫れてきてるし、痛い。」

骨が折れているかもしれないな。僕の顔が険しくなったからか、坂口はニヤッと笑って、

「大丈夫だって!俺、前に骨折したことあるけど、すぐ治ったし。俺の再生力なめんなよ?」

冗談めかして言った。

「さっすが、坂口京介。」

僕ものっておく。

「なあ、青木。」

「ん?」

坂口を見ると真剣な顔をしていた。

どうしたのだろう。

「俺さ、プールで見たんだ。」

「何を?」

「クロールしてる時にさ、ふっと横を見たら白いワンピース?って言うのかな。それを着た女の子がいてさ。大の字になってプールの底に寝てたんだ。見たことない子なのにどこか懐かしいなって思ってぼーっと見てたら、前に壁が迫ってるのに気が付かなくて、この有様。」

坂口は、そう言うと怪我した指をあげてみせた。

「不思議な話だね。実は僕も不思議なことがあって、またクジラがいた。今度はプールの中に。」

「まじか。そんなに何度も見るなんて見間違いじゃないな。」

「うん。僕もそう思う。」

僕と坂口が同じタイミングで、それぞれに不思議なことが起きている。

これは偶然だろうか。僕はこの2つの出来事には何か繋がりがあるんじゃないかと思った。

「そういえば俺思ったんだけどさ、普通知らない子がプールにいたら先生気づくよな。それにあの子水着じゃなくて服着てたし。違和感だらけじゃね?」

「それは、僕も考えた。変だよね。でもさ、もしこうだったら?僕が見たクジラが急に現れて急に消えるのと同じで、その女の子も消えることができるのかも。」

「確かにな。その線ありうる。なあ、もしかしてクジラと女の子は何か目的があって、ここじゃない別の世界から来たんじゃないか?」

坂口がふと、ひらめいたような表情で言った。

「でも、そうしたら何をしに来たんだろう?」

「それは……わかんねえけど。観光?」

相変わらず、おもしろい。坂口らしい発想だと思った。その時、保健室の引き戸が開いて、保健室の先生が入ってきた。

「あら、ごめんなさい。少し職員室に用事があって。すぐに手当てするわ。」

白衣を着た先生は慌ただしくそう言うと、坂口に怪我をした状況やらを聞き、処置をした。骨折している可能性があるから、病院に行くようにと言われて、僕たちは保健室を後にした。

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