プールのクジラ
ミーンミーンミーン……。
僕は蝉の声が響くプールサイドで準備体操をする。今日から水泳の授業が始まるのだ。
坂口は早くプールに入りたくて朝からうずうずしている。
先生の吹く、ピーッという笛の音がして、みんなが一斉にプールに入る。
僕はゼリーのような水中を手でかきわけるのが好きだ。冷たくて気持ちがいい。
坂口が近寄ってきて、
「今年の夏の目標!クロールのタイムで青木を抜く!」
ドヤ顔で言い放つ。思わず笑ってしまう。
「うん!僕も坂口に抜かされないようにがんばるよ。」
「負けた方がアイスおごりな!」
「アイス好きだねえ……。」
先生から指示があった通りにそれぞれのコースに並んだ。
僕は3コースで坂口は2コースだ。
クラスメイトが次々にプールに飛び込んでいく。ペンギンみたいだな。
僕達の番が来て、僕も坂口も飛び込み台に登った。
「位置について、よーい……ピーッ!」
先生の吹く笛の音と同時に飛び込む。
ドォンという音がして、懸命にクロールを始める。25メートルを泳ぐと、折り返しだ。
そこまで順調に泳いでいた僕は、自分の目を疑った。僕の前方にクジラが泳いでいた。
これまで見たのは、やっぱり幻覚じゃなかったのか……。夜空に見たクジラの次に大きかった。体は透けていて、僕の方に向かって泳いでくる。ぶつかる!と思った瞬間にクジラは一声鳴いたあと、泡となって消えた。あのクジラは僕に何かを訴えているのだろうか。
僕は、はっと我に返って再び泳ぎだす。なんとか1位でゴールすることができた。内心ほっとしながら、プールから上がる。
何かおかしい。坂口が見当たらない。坂口は僕とそんなにクロールのタイムは違わないはずだ。他のコースを泳いでいた者たちも全員戻ってきている。僕は再びプールに飛び込んで坂口を探した。
「坂口!」
坂口は25メートルの折り返し地点の水中で手の指を抑えながら苦しそうな顔をしていた。
「どうした?」
僕が近付くと
「指……折ったかもしれない。」
無理してへらりと笑っている。どうやら、折り返す時にプールのへりに手の指をぶつけたらしい。
「しばらく泳げないか。でも、お前のタイムは絶対抜くからな。」
「わかったから。保健室行くよ。」
僕達は2人でプールから上がり、保健室に向かった。
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