水たまりのクジラ

小学校の近くのコンビニで坂口にアイスをおごり、僕もついでに同じのを買った。すでに溶け始めているアイスを口に突っ込みながら、坂口が僕に目をやる。

「そーいや、お前今日の算数の授業中なに考えてたんだ?ぼーっとしないように気をつけてたのにさ。」

「あー。実はさ、昨日の夜、クジラを見て。その事を考えてた。」

「クジラ?テレビで?」

「いや、空に。」

坂口はポカンとした顔をして、

「実は飛行機だったとかいうオチ?」

と少し笑った。まぁ普通こうなるよな……。

「それが違くて、本物でさ。空をゆっくり1周したと思ったら消えちゃったんだけどね。」

僕はきっと信じてもらえないと思って半ば笑いながら話した。案の定、坂口は信じてくれなかった。

「えぇー。空にクジラとかありえないだろ。」

「だよね。僕も自信なくなってきてて……

あっ!」

下を見ながら歩いていた僕の目に飛び込んできたのはクジラだった。

水たまりの中を悠々と泳いでいる。そんなに小さなクジラがいるわけないがないと思われるかもしれない。でも、そいつは確かに僕が昨夜見たクジラが小さくなったものだった。坂口が不思議そうな顔をしている。

「どした?」

「いるんだよ!クジラが!水たまりに!」

「え!?」

坂口は目を凝らして水たまりを見るが、ため息をついて、

「いないじゃん。青木お前大丈夫か?」

「そんなはずは……。」

と、僕が水たまりに視線を戻すと、もうそこにクジラの姿はなかった__。

「おかしいなぁ。確かにいたのに。」

「きっと何かの見間違えだって。」

「うーん。そうかなぁ。」

僕は腑に落ちないまま、もう別の話を始めている坂口と再び歩き出した。

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