3 下僕死体の放置プレイ
3-1 天使のファッションショーって……、パンツ干すなw
「お前、寝ぼけると本当にヘンになるな」
「それは言わない約束にしようよ。お寝坊な天使とか、いっつも上司に怒られるんで」
ティラは、困ったように微笑んだ。昨夜、妙になれなれしく迫ってきたので拒絶したが、スパを茹でている間にすやすや寝てしまい、晩飯ができた頃にはすっかり元の「天然」天使に戻っていて、自分の行為を全部忘れていた。
「まあいいや。裸で抱きついてくれたから得したし」
ティラは青くなった。
「思い出しちゃだめーっ」
「はいはい。……では行ってくんな。昼は部屋にあるパンとかレトルト食べてて」
「はーい」
声に見送られて部屋を出た。今日は遅刻しないで学校に行ける。なんたって徒歩八分。「学校至近」で、なおかつ「線路を挟んでいるので教師とかがあまり通らない場所」というアパートを、選びに選んだんだw
これが徒歩五分だとだめだ。いくら駅の反対口といっても、家の前で会ってしまう可能性がある。
学校に着くとまず職員室に顔を出して、遅刻した上に午後もエスケープした件を美咲先生に謝罪した。午後の件は、長野での法事の相談ということにしておいた。
まあ、美咲先生には思いっ切り睨まれたがw そりゃそうだ。ウソ丸出しだもんな。
それでも俺を引き連れ、生徒指導の教頭に一緒に謝りに行ってくれた。教頭からは嫌味丸出しの「お悔やみ」を言われたが、俺はこらえた。
てか、そもそもウソ法事で、教頭のが正しいしな。もっと言えば自分が死んでるわけで、言ってみればその「法事」だ。
などと屁理屈をこねながら授業はひととおり流し聴いて、どうしても飛び飛びになる自分の学習範囲を確認しておく。あとで参考書や問題集でフォローするためだ。
俺は、いつもこの手で試験を切り抜けてきた。口の悪い同級生には「お前はもう自宅高校卒でいいじゃん。テストも自分で作って自分で採点しろよ」とか言われるのだが。
六時限しっかりこなすと、とっとと学校を出る。じきに月末で父親から振り込みがあるが、今月は遊んでないので余裕がある。
ティラに安いケーキでも買って行ってやるか。あいつ質より量っぽいから、百円ケーキ十種類くらい買えばいいや。俺も食いたいし。
ケーキ屋の店頭で、ああでもないこうでもないと、ちまちまケーキを選んだ。そんな俺に、電柱の陰からアツい視線を送ってくる女子がひとりいた。
こそこそしてるから、隠れているつもりのようだ。きもっ!
セーラー服を着ているし、どこかの中学生のように見える。まさかとは思うが、このいい加減な俺様に告白とかw
ガン無視してケーキ屋を出た俺は、コンビニでプチエッチな雑誌の表紙など鑑賞した。買うのはもったいない。エロ系はスマホの動画でいいんだが、今はティラがいる。目の前で観ると、また煩悩がどうのこうのとか難癖つけられそうで面倒だ。
溜息をつくと、ゲーム屋だの今となっては貴重なゲーセンなど見て回ってからアパートに戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
部屋から声がした。
誰かに迎えてもらうのっていいな。しおんのように、母親について長野に行けば良かったか。
受験があったって言ったってさあ、結局ここでこうして死んじゃったわけで。向こうに行っていれば手料理を食べていて、多分食中毒にはなってないはずだし。死なずに済んだのは間違いない。
「なんだこりゃ……」
どうやらティラはファッションショーをしていたようだ。下着からジャケットまで俺の服が全部ひっぱり出され、床と言わずベッドと言わず、ワンルームのアパートにめいっぱい広げてある。で、肝心の本人はというと、えんじ色のジャージに、白と紺のTシャツを二枚重ね着し、レモンイエローの薄いジャケットを羽織っている。
「どう、これ」
ジャケットの裾を持って広げてみせたりして、うれしそうだ。
「かわいいと思うよ」(天使服のが素敵だけどもなあ……)
「ですよね」
我が意を得たりと、ティラは微笑んだ。
「苦労したんだぁ、ロクな服がないから。――あーでも、きつくてジャージしか穿けないから、そこがカッコ悪いかも。ねえ……」
「なんだよ」
「お洋服買いに行こうよ。そのくらいのお金は上司にもらってるから。下着だって買わないと。直哉くんのパンツ穿いてるんだけど、男の子の下着はスカスカして落ち着かないというか」
「そりゃそうだろ」(パーツが足らないしな)
そういえば、窓の外に天使服とレースひらひらパンツが干してある。俺の家には洗濯機は置いてないから、手洗いしたのだろう。
「なら行くか。ここにはロクな服がないしな」
「きゃあーうれしい」
イヤミに気づかず、能天気に喜んでやがる。
まあいいか。とりあえず天使パンツとか見られて得したような気もするし。
「そうだ」
急に思いついたかのように、ティラが声を上げた。
「いいことしてあげる」
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