2-5 ティラお前、混浴済ませてからヘンだぞ

 あきれたように眺めていたが俺がどきそうもないとわかったのか、ティラはスポーツタオルで体を隠したまま、しぶしぶ浴槽に足を浸けた。上体をまっすぐ起こしたまま、体を沈める。


「それじゃ寒いだろ。ウエストまでしか湯に入ってないじゃないか。遠慮しないでよりかかっていいから」

「胸触るでしょ」

「絶対触らない。誓ってもいい」

「ほんとうーっ?」


 疑っていたが、やはり温かな湯の誘惑には勝てなかったようだ。そろそろと体を倒してきた。もちろんタオルで前を隠したまま。俺の胸にちょっとだけ背中を当てて、腰は太ももに挟まれ、浴槽の縁に回した直哉の腕に両肩が当たっている。


「柔らかいなあ……」

「えっ?」

「いやなんでも」


 女子の体が胸だけでなく腕や背中に到るまで柔らかいことに、感激した。


 いや触りたい。撫でてみたい。思いっ切り揉んでみたい。


 そこをぐっとこらえる。


「くそっ」

「なによ」

「いやなんでも」

「なんかヘン」


 これも美少女天国に昇天するためだ。


 修行のためと心頭滅却して、しばらくは我慢した。天使は「わあーあったかーい」とかのんきに喜んでいる。とはいえ体からはなにかを誘ういい匂いが漂ってくるし、物理的というか下半身工学的に、ちょっとやばい状況になってきた。


 幸い下半身は接触していないので気取られないはずだが、もう辛抱たまらん。ここまで自制したんだから、今日の修行はもういいだろ。


「じ、じゃあ俺出るな。あとはゆっくり入るといいよ」


 タオルで隠しながら、俺はこそこそ逃げ出した。ティラが背中になにか言っていたが、風呂に浸かりすぎてのぼせてもいるので、よくわからなかった。水をごくごく飲むと、そのままベッドに倒れ込んだ。


「はあーあ」


 気持ち良かったのか苦しいだけだったのかわからん。一句詠むか。


 ……「成仏の道なお険し、春の宵」


 俺才能ないなw あっ鼻血出てきた……。


 謎俳句を捻り出したが、のぼせて気が遠くなってきた。


         ●


「……えーと」


 気がつくともう部屋は真っ暗だった。俺は素っ裸のままベッドに横になっており、ブランケットがかけられている。ベッドの縁にぼんやり暗く、ちょこんと座るティラの背中が見える。俺の制服のシャツを着ているようだ。


「灯りくらい点けろよ」

「起きたのか」


 直哉が声をかけると、振り返りもせずに言う。


「今、何時」

「七時だな。私は腹が減ったぞ。ヒトといるときは、飯が必要だ」

「そうか……。考えてみれば、昨日も晩飯抜きだもんな。スパでも茹でるよ」

「任せた。……でもその前に」


 ベッドに手を着いた。長い髪がばさっと流れる。


「ティラ……」


 ティラはシャツを羽織っているだけだった。暗くてよくわからないが、胸から腹まで丸見えになっている。下半身も裸のようだ。


「直哉、お前、私とこんなことがしたいんだろ……」


 暗闇に、瞳が赤く、わずかに光を帯びて輝いている。ティラは、そっと体を滑り込ませてきた。


「……なんかお前、違うぞ」

「違うものか」


 くすくす笑い出した。


「これが私だ」


 俺の裸の胸を撫で始めた。


「窮屈でなあ……、『ここ』は」

「狭くて悪かったな」

「ふふっ。かわいいな、お前……」


 俺の腕をまくらにして寄り添うと、胸をつけるようにして体を抱いてくる。


「よせ」


 本能的に違和感を感じ、ティラの体を引き剥がした。


「お前、誰だ」

「私は私だ。『ティラ』だよ。決まってるだろ」


 天使は妖艶な笑みを浮かべた。瞳を輝かせながら。

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