3-2 セーラー服のN○K職員、襲来w
「そうだ。いいことしてあげる」
ティラは繰り返した。
「買い物に付き合ってくれたら、お姉さんがケーキをごちそうしてあげるね」
「それ系は買ってきたんだけどさ」
俺はボックスを振ってみせた。
「ま、明日食べればいいか。ところで『お兄ちゃん』はどうした。急にお姉さんとか。俺より年下設定じゃないのかよ。天使の年齢とかわからないけど」
「年齢は……女の子として明かすのは恥ずかしいけれど、十万十五歳。でもでも若く見られるから。十万十四歳くらいに」
「はあそうすか」
十万年以上生きてて歳を訊かれるのが恥ずかしいなんて、まさに女心の神秘だな。
「そろそろ買い物に行くぞ」
「はーいっ」
ティラがうれしそうに俺の腕を取った。腕を抱くようにして、胸を押し付けてくる。触ると怒るくせに、女子はよくわからない。
そのとき玄関チャイムが鳴った。ドアを開けると、ポニーテイルのセーラー女子が立っている。さっきケーキ屋前でこそこそしてた奴だ。
「はい、なんでしょう」
「NHKですが、受信料の集金に来ました。って、あっちょっと。なんで閉め――」
俺はドアを閉ざした。
春になるとカエルや虫が冬眠から覚めて地面から這い出してくる。
ピンポーンピンポーン――。激しくチャイムが鳴り続けている。深呼吸して怒りを鎮めてから、俺はノブに手をかけた。さっきの女子が、ひきつったような笑顔を浮かべている。
「……なんだよ」
「えっと、今のは冗談。ほら漫才でもツカミは重要だし、ちょっとしたジョークで場を和ませて――」
「なんで俺を和ませる必要があるんだよ。そもそもお前なんて知らないぞ。迷い猫の回覧板でも持ってきたのか」
「はあ? なに言ってんのよあんた。なにが猫よ。ふざんけんなっての」
腕を腰に当てて、女子は急に逆ギレし始めた。
「人が下手に出てれば調子こいて。あんたにお願い事があるから、このあたしがよ、わざわざ和ませてあげようと思ったんじゃない。そもそもあんた生意気よ。死んでるくせに。死体なら死体らしく、きちんと部屋で死後硬直とかしっかり仕事してなさいよ。なにのんきにふらついて、エッチな雑誌、見て回ってんのよ。バカじゃないの」
機関銃のようにツッコまれ、俺は頭をかいた。どうやら苦手なタイプの女子のようだ。
「うるせえなあ。お前、俺の母親かよ」
「あらなに。文句あるわけ」
「おおありだ」
俺は女子をじっくり眺めた。中学生にしてはまずまず成長した体型だが、背は低い。今は目が吊り上がっているものの、それを抜きにすればかわいい。長めの髪を上のほうでポニーテイルにくくっているのは、風にそよぐ髪の毛が鬱陶しいからだろうか。
「いずれにしろ、受信料はさておき、お前とは少し話さないとならないようだな。玄関先で死体死体叫ばれても迷惑だし。――ほら入れ」
「最初から素直に入れればいいのよ。わかった?」
遠慮会釈なく、女子はズケズケと上がり込んできた。
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