1-4 天使のベッドにダイブ ――「賢者タイム」作戦――

「さて。ではこれから煩悩除去実験に入る。コードネームは『イレイサー』だ」


 一応は勉強用に確保してある椅子に腰を下ろした俺は、おごそかに宣言した。なんでコードネームが必要なのか自分でもさっぱりわからなかったが、とにかくそのくらいテンションが上がっていたのだ。


「は、はい……」


 ベッドにちょこんと女座りさせられたティラは、恥ずかしそうにもじもじしている。もちろん最初の「天使服」に着替えさせてある。


「本実験では天使形状の女子が着衣を脱着し、それを見た被験者が煩悩を極限まで高める。それにより『賢者タイム』の脳内降臨を図り、もって昇天への道標を一歩進むことが目的だ。いいな」

「はっはい……お兄ちゃん」


 恥ずかしさのあまり、さっき脳に刷り込まれたニセ妹設定が噴出している。それはそれで素晴らしい事態だ。


「恥ずかしがるな妹よ。これも兄が安らかな死を迎えるためだ」


 自分でもなに言ってるかわからないが、まあいい。それにティラもこくんと頷いてるし。


「……では始めよう。脱着開始っ」


 ティラは後ろを向いてしまった。それから肩のひらひらしたストラップを片方外した。しばらく下を向いたままなにかを考えていたが、もう片方にも手をかけた。


 服がすとんと落ちる。


 背中が丸出しになった。余分な肉がついておらず、背筋がすっと通っている。それでいて適度に丸みがあり、肩も背中も柔らかそうだ。きれいな形に、肩甲骨が浮き出ている。そこには左右ともスイートポテトのような楕円の、小さな膨らみがあった。


「その背中の膨らみは?」

「はっはい。こ、ここには……天使の羽が生えてくるの。その……『おとな』になったら」


 そうかやっぱり生えるんだ。羽ないと天使感ないもんな。


「いつおとなになるんだ?」

「多分……もうすぐ」


 なぜだか悲しそうな声だ。


「ふーん……」


 もぞもぞ動いて服を脱ぐと、恥ずかしげにティラがうつむいた。


「その……」

「なんだ」

「パ、パンツ……も?」

「もちろん」


 しばらく逡巡する。それからのろのろと下着を脱いだ。少しだけ腰を浮かすようにして。その瞬間、腰から脚にかけてのラインが見えた。


「これで……いいですか? ぼ、煩悩どう?」

「そ、そうだな……」


 思わず見惚れて無口になっていたが、言われて我に返った。


 なんか俺の人生あまーい方面に向けて急転直下だが、まあいいだろ。これまでろくなことがなかったんだ。神様が埋め合わせしてくれてるのさ。


 ちょっとこの天使に悪い気もするが、俺が成仏したら成績上がるんだから、お互いウィン・ウィンって奴だな。


「煩悩はもうすぐ消えそうだ。えーと次は……こっちを向いてもらえるかな」

「えっ。でも……」

「この世への未練をなくすには、それしかないだろ」

「う、うん。私も上司にほめてもらえるし」

「そうそう。だからさ、ほら……」


 ティラは無言で首を縦に振った。それから、手を胸と太ももに置き、そろそろと回るように俺に向き直った。下を向いたままだったが、思い切ってちらりと上目遣いになると、ようやく顔を上げた。


「こ、こうでしょうか……」

「おうふっ!」


 俺の前に、白い裸身があった。


 清らかで神々しい。さすがは天使だ。


 胸は大きいが張りを保っており、ブラで支えたままのようにまっすぐ前に突き出ている。腹はティラの体で唯一柔らかさを感じさせない締まり方で、へそが縦に長く筋を残している。しっかり脚を閉じたままで手を置いているからその下は見えないが、うっすら筋が見える太もものラインも美しい。


「なら次は、て、手を外してみようか」


 声かすれたw これは恥ずい。まあ俺も彼女とか皆無だったし、こんな夢のようなシチュエーションに慣れてないのは仕方ない。


「外すの?」

「うん」

「手を」

「ああ」

「む、胸から」

「そうさ」


 じれったいな。俺は大きく頷いた。


「で、では、ちょっとだけだよ。煩悩を解放させるため」


 覆っていた右手をそっと外すと、左手同様、脚まで下ろした。


「ど、どうかな……。私の胸」


 言葉も忘れて、俺はこくこくと頷いた。文字どおり夢にまで見た女子の胸が(てか夢でしか見たことがないのが情けないがw)、網膜に襲いかかってくる。


 グラビアとかよりは、ティラは小さいんだな。色なんかも周囲とそんなに違わないくらい薄いし。


 そこまでは冷静に観察したが、もうだめだった。飛び込むように、俺はベッドにダイブした。


「なに、おいたしたいの?」


 意外にも、ティラは俺を受け入れてくれた。体をぎゅっと抱かれる。ティラの胸が、俺の顔を包むように優しく支えてくれる。


「甘えん坊なんだね、直哉くんは」

「……」

「きっと子供のとき、辛かったんだね」

「……」

「でもごめんね。そんなに強く抱かれると、ちょっと怖い。だから――」


 ティラの声が、どこか遠くで響いているかのように、かすれてきた。

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