その2 火曜日
二日目、火曜日、
その日も俺はジョージの車で、朝から植木邸を張っていた。
流石に同じ車だと目を付けられる可能性があるとみて、前もって昨日とは車種を変えるように頼んでおいた。
今日のは黒のワンボックスカーだ。
朝6時に張り付きを開始する。
午前8時少し前、息子と娘が家を出る。
息子は都内の私立大学に入ったばかり、
娘は都立高校の一年生だという。
そして午前8時30分、植木氏が昨日と同じ、クラウンで外出した。
俺たちの前を通り過ぎるとき、ちらりと心配そうな視線をこちらに投げたのを確認する。
『今日も何もねぇんじゃないの?』ジョージが咥え煙草のまま、独り言を漏らす。
俺は何も答えず、じっと玄関を見据えた。
それにしても都心近くにこんな家屋敷を構えるとは、彼も相当の苦労をしたんだろう。
そんなことを考えながら、腕時計と玄関を交互に見る。
シナモンスティックを三本齧り、残りはあと二本となった時、聡子が出てきた。
やけに軽装である。
手には買い物用のカートを引きずっている。
車で付け回したんじゃ、目立って仕方がない。
俺はジョージに”待っててくれ。ここからは歩く”と言い置いて車外に出た。
彼女の後ろを、十分に距離を取って歩いていく。
家から歩いて20分ほどのところにある、いささかお高そうなショッピングモールに入った。
無論俺も後を追う。
しかし何ていうこともない。
彼女はその店に20分ほどいて、買い物(食料品と化粧水だった)を済ませると、そのまま店を出て、帰宅。
それ以後、午後9時過ぎに夫が帰宅するまで、外出することは全くなかった。
『なあ、ダンナ、こいつはあの亭主の思い過ごしなんじゃねぇか?』
俺が車に帰ってくると、ジョージが言った。
『二日間張り付いても、男の”お”の字も出て来やしねぇ。あの亭主、自分が中卒でコック上がり。でも女房は美人でしかも大卒の才媛なんだろ?つまりは”蚤の夫婦“ってやつだ。それがちょっと外で若い
確かにな、ジョージの言葉にも一理はある。
しかし、俺は探偵だ。
なにがしかの結果を出すまで、放り出すわけにはゆかん。
『荒療治が必要かもな』
俺は最後の一本を齧り終えると、ぼそりと言った。
『荒療治?何をするつもりだね?』
『済まんが秋葉原へやってくれ。ジョージ』
『いいけど、何をする?』
『買い物だよ。電気屋で』
『冗談言うな、こんな時間に開いてる店なんか』
『一軒あったろ?お前さん行きつけの』
『買い物って・・・・ダンナ、まさか・・・・』
『いいから出してくれ。払うもんは払ってやる』
訝し気な目をしながら、ジョージはサイドブレーキを外し、アクセルを踏み込んだ。
俺は秋葉原に着くと、メイドカフェだのパソコンショップだのには目もくれず、
一軒の古びた雑居ビルに入ると、”品物”を買いそろえた。
車に揺られながら、俺は植木氏の番号にかける。
”え、しかし、そんな真似までして・・・・”
最初彼はひどく渋っていたが、契約書の中に、
『契約に関しては探偵(つまりは俺のことだ)に調査の方法その他は全て一任する』
とある以上、向こうも何も言えず、半ば渋々ながら承知をした。
『さあ、ジョージ、今日の仕事は終わりだ。ご苦労さん、ネグラに帰ってくれ』
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