第0.06話 対話(タイワ)

 ≪ソロソロ来ル頃ダト思ッテイタゾ……、天狼ノ技ヲ継グ者よ。≫

 

 黒き疾風かぜが吹き過ぎ姿を現したのは……漆黒の毛皮を纏う巨大な狼だった。


 俺は不思議とこの狼が怖くなかった。

 むしろ、その荘厳さに心を奪われていた。

 【天狼派古流】を継ぐ者の心に宿る、その技と精神を具現化した存在なんだから当たり前と言えば当たり前か。

 

 ≪ソシテ、技ヲ継グ者ヲ術ニヨリ覚醒メザメサセタ……オ主。

 ソノ身ニ宿ルカラシテ……、魔族界ノ者カ?≫


 「いかにも。お初にお目に掛かる。

 我は、イリス・ダークシュナイダー。

 魔族界の王にして最強の術者マルドゥック・ダークシュナイダーの孫であり近き将来、魔族界を統べる者。


 ――此度こたびは、このニンゲンを術により無理矢理に覚醒めさせ我が狩りに貴殿の同意なく【気高き狼の力】を使った事、心からお詫びする。」


 ≪近キ将来、魔族界ヲ統ベル……カ。

 マルドゥックノ令孫マゴトコウシテ顔ヲ合ワセル事ニナルトハナ……。

 何モカモガ懐カシイ……。

 

 時ニ、狩リト言ッタカ?

 未ダ魔族界ノ秩序ヲ脅カス者ドモガ居ル……トイウ事カ?

 ソシテ、ソ奴ラガコノ世界ニ来テイルト?

 ――ソレガ昨夜ノ闘イトイウ事か。≫


 「いかにも。

 魔族界からこちらの世界に入り込んだ不届き者が居るのです。

 そして奴らはニンゲンを魔物に堕とし勢力を拡大しようと画策しています。

 ――それはそれとして、貴殿は我が祖父をご存知なのですか?」


 ≪ウム……。ヨク知ッテオル。

 アノ者ガ魔族界ニ生マレタ時カラ同胞ハラカラニ話ヲ聴イテオル。

 ソレニ実体化サセタコノ身ヲ魔族界ニ飛バシ、供ニ【邪悪ナル存在ザ・イーヴル】ト闘ッタ事モアルノダヨ。


 ――コレハ天啓カモシレヌナ。

 オ主ガココニ来タ理由ガヨクワカッタ。

 サテ……待タセタ様ダナ、天狼ノ技ヲ継グ者よ。

 オ主ハドウシタイノダ?≫


 「お、俺は……さ。

 何もわかんねぇままにココに来た……つーか連れてこられたんだよな。

 お前さんと対話して【力】を使う事に同意をもらうために。

 だけど来てみたら、話がドンドン進んでくじゃねーか。

 これなら俺は来なくてよかったんじゃねーか?


 それに、【天狼派古流】の技でホントーに魔物と闘えるのかよ?

 なんで古武術の技が魔物相手に通用するのかイマイチ理解できねぇ。

 それに俺自身はどうなんだよ? 魔物なんか相手にして勝てるのか? 

 勝てなきゃ喰われて死んじまうんだぜ?」


 ≪ナルホド……ナ。

 動揺スルノモ栓無キコトジャテ。

 ダガ、コレダケハ言ッテオク。

 オ主ハ強イ……、トテモ強イ。


 天狼ノ技ヲ継グ者ノ中デモ群ヲ抜イテ……ナ。≫




※BGM「METAMORPHOSIS」 / DEAD END


 

 

 

 

 

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