第13話 デーモンメイド

 それから待つこと数分程度で料理が完成したらしく、エリスは満面の笑みを浮かべながらこちらへと向かってきた。


「できたわよ~!!」


「‥‥今回はちゃんと味見したんじゃろうな?」


 昨日という前科があるからの、念のため聞いておかねばならん。


「も、もちろんよ?お、美味しいと思うんだけど‥‥」


「それならよいのじゃ。」 


 味見して美味しかったのなら良い。エリスが美味しいと言っておるのであれば何も問題はないであろうしの。


「それで?今日は何を作ったのじゃ?」


「えっと‥‥チーズ入りスクランブルエッグと、カリカリに焼いたベーコン、それとオニオンスープ‥‥よ。」


 作った物の名前を言いながらテーブルの上に料理を配膳するエリス。きっちりと料理の本を見ながら作ったおかげもあってか盛り付けもそれなりにできている。何より見た目から美味しそうじゃ。


「昨日とは雲泥の差じゃな。」


 くつくつと笑いながらエリスに話しかけると、エリスは顔を真っ赤にして言った。


「き、昨日は何も知らないで作ったから‥‥も、もうそんなことはいいでしょ?早く食べないと冷めて美味しくなくなるわよ?」


「くっふふ‥‥そうじゃな。ではいただくとしようかの。」


 昨日と同様に二人でいただきます‥‥と挨拶をしてから食べ始める。まずはオニオンスープとやらからいただくとしよう。

 薄く切られた玉ねぎが入ったスープはあっさりとしていてとても飲みやすい。

 それに続いてベーコンとスクランブルエッグも口にした。味は昨日作ったカレーとは違いとてもシンプルなものだったが、寝起きにはこれぐらいがちょうどいいと感じる。


「うむ、美味しいのじゃ。」


「ほ、ホントに?」


「本当じゃ、こんなことで嘘をついても何の得もないじゃろ?」


 素直に美味しいと感想を述べるとエリスはホッとしたような表情を浮かべた。

 にしてもあの本‥‥「夫に喜ばれる料理大百科」と言ったかの。昨日まで暗黒物質しか作れなかったエリスにここまで料理らしいものを作らせるとは、なかなかに良き本なのやも知れんな。

 後で儂にも見せてもらうとしよう。食の探求にも繋がるかもしれんからな。


「そういえば、グリアは今日はどうするの?」


「特に予定は考えてはおらんかったな。エリスはギルドの仕事があるのじゃろ?」


「そうね、ギルドの長として色々とやらなきゃいけないことがあるわ。」


 エリスはギルドの仕事があるか‥‥なら儂も少し依頼でもこなしてみるとするか。


「ならば儂もギルドまで同行しよう。ランクを上げるために依頼を受けたい。」


「そう、じゃあご飯食べたら一緒に行きましょっか。」


 そして朝食を済ませ、いざギルドへ行かんとした時エリスに呼び止められた。


「‥‥グリアあなたその頭で外に出るつもり?」


「む?頭とな?」


 頭を触ってみるがそこには髪の毛があるだけ‥‥。エリスの言葉がわからないでいると。


「鏡、見てみたら?」


 そうエリスに言われ、言葉通りに鏡で自分の頭を確認するとそこには驚くべき光景が写っていた。


「な、なんじゃこれは!?儂の髪の毛が爆発しておるのじゃ!!」


 鏡に写る自分の髪の毛が至るところ飛びはね、あらぬ方向に延びたりしている。

 ま、まさかここに来て昨日の風呂の湿気が儂の体に影響を及ぼしたのか!?

 予想だにしない体の変化に戸惑っていると、エリスが言った。


「それは寝癖っていうのよ。ちゃんとブラシで髪を解かせば治るわ。ほら、ここに座って?」


「う、うむ‥‥。」


 エリスに言われた通り椅子に腰かけるとエリスは儂の髪の毛にブラシを通し始めた。

 そしてひととおり全体にブラシを通すと、暴れていた髪の毛が昨日と同じくもとに戻る。


「人間の体はやはり少し面倒じゃな。」


「ふふっそれがいいんじゃない?慣れれば魔導書になんて多分戻れなくなっちゃうわよ?」


「そういうものかのぉ~。」


 こういうことも何度もしているうちに面倒と感じなくなるんじゃろうか‥‥。まぁ、まだこの体になって二日目じゃからな。長い目でみていかねばならんの。


「さて、じゃあ準備はいいかしら?」


「うむいつでも大丈夫じゃ。‥‥と言いたいところじゃが、少し待ってもらえぬか?」


「いいわよ?まだ時間あるし、何するの?」


「この家を守る番人を召喚しようと思っての。ついでに掃除とかもやらせておくのじゃ。」


 床に手を当てて魔法を詠唱する。


「召喚 デーモンメイド」


 詠唱を終えると床に魔方陣が現れ、そこから一体の人の形をしたデーモンが現れる。

 そして一度辺りをキョロキョロと見渡し、儂を視界に納めるとそやつは跪いた。


「グリモア様、ご機嫌麗しゅうございます。此度はどのようなご用件でございますか?」


「うむ、主にはこの屋敷を守ってもらいたい。まぁ掃除とかしていてくれれば尚良し‥‥と言ったところじゃな。」


「かしこまりました。私の眷属を召喚してそやつらに手伝わせてもよろしいでしょうか?」


「構わぬ、では任せたぞ?」


 デーモンメイドに家のことを任せ、エリスの方に向き直る。


「では行こうぞ?」


「え、えぇ‥‥行きましょっか。」


 なにやら顔から冷や汗を流しているエリスと共に屋敷を後にし、ギルドへとむかうのだった。

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