第10話 エリスの料理の腕前

 エリスがふんふん♪と鼻唄を歌いながら目の前で料理を作り始めた。

 意外にもその手際は良いようで次々に野菜や肉等を切っていく。剣士じゃから切るのには慣れておるのかもしれんな。エリスの料理で味覚との初対面じゃ、楽しみに待っておくとしよう。

 そして満面の笑みを浮かべエリスがテーブルの上に料理を運んできたとき‥‥高揚していた気持ちが一気に落下し絶望に変わった。


「え、エリスッ!!なんなのじゃそれはっ!!」


「え?なにって‥‥マンドラゴラとカラカサテングダケと‥‥後たくさんのお肉とお野菜を煮込んだ料理よ?いや~料理なんてしたことなかったけど意外と簡単にできるのねっ。」


 マンドラゴラにカラカサテングダケが入った料理なんぞ聞いたことがない。少なくともこの紫色のポコポコ泡立つスープを料理とは認めることはできぬっ!!


「‥‥エリス、お主それ味見はしたのかの?」


「えっ?味見?そんなのしてないわよ。だって私が気持ちを込めて作ったんだから美味しいに決まってるわ。」


 あ、ダメじゃこれ。エリスの頭の中に黄色い花畑が広がっておるようじゃ。

 気持ちを込めて何かが変わるはずないじゃろうに‥‥。


「ひとまず一口それを食べてみるのじゃ。初めて作った料理がどんな味なのか気にならんか?ん?」


「う~ん、それもそうね‥‥それじゃ試しに一口‥‥」


 スプーンで一杯紫色のスープを掬い、エリスは口へと運んだ。


「~~~ッ!?きゅぅ‥‥」


「‥‥‥はぁ、やはりこうなってしまったか。」


 一つ大きくため息を吐き出し、床に突っ伏しピクピクと痙攣するエリスのことを見下ろす。

 思った通り、マンドラゴラとカラカサテングダケを材料に作られたそれを食べてしまったエリスはパタリと床に倒れこんでしまった。

 まぁカラカサテングダケは猛毒じゃし、マンドラゴラに関してはちゃんとした処理をしなければ命を吸われてしまうからな。この頭に広大な花畑を持っているエリスがその処理の仕方を知っているとは思えんし‥‥まぁ当然の結果じゃな。


「おーい、エリス?生きておるか~?‥‥むぅ返事がないの。」


 体はまだピクピク動いておるし、返事は無いがまぁ生きておるじゃろ。

 床に倒れこみピクピクと痙攣するエリスの頭に手を当てて魔法を唱え始める。


「解毒 鈴蘭の憂鬱リリィメランコリー


 魔法を唱えるとエリスの体から紫色の煙が排出され空気中に霧散する。さっき唱えたクリアエアーの効果がまだ残っているから空気に漂う毒気さえも浄化されてしまったようじゃな。


「さて、エリスはこれでよしとして‥‥次はこの毒素の根源をどうにかせねばならんな。」


 エリスのことをソファーに横に寝かせ、儂はこの暗黒物質ダークマターと向き合う。これから漏れてくる毒気はクリアエアーで浄化されているがいち早くこいつを何とかしないとヤバそうじゃ。


「どうせ食べられんのじゃ、消してしまった方が良いか。」


 今日は何度もこいつにお世話になるのぉ~‥‥。そして今日何度目かのブラックホールを掌に出現させ、この暗黒物質ダークマターを呑み込み消し去る。


「これでよし、さてエリスに料理の技術がないことがわかってしまったからの。味覚との初対面はまだお預けになりそうだの。」


 また次の機会に持ち越しか‥‥と気を落としていると不意にあることを思い付く。

 エリスが作れぬのであれば儂が作れば良いのではないか?いや、儂も料理の経験なんぞ無いしのぉ‥‥ん?いや、ちょっと待つのじゃ。

 目を閉じ、自分に刻まれているモノを一つ一つ確認していくと‥‥。


「やはりあったのじゃ。カールの言っていたカレーというもののレシピが。」


 昔カールがカレーという料理を発明したときに大喜びで我を忘れ、魔導書である儂の貴重な白紙のページにそのレシピを誤って記してしまった事がある。

 あの時は自分を魔導書ではなく料理本として扱うかこのたわけッ‥‥とカールのことを一喝した記憶がある。

 じゃが、こんなものでも案外役に立つ時が来るものじゃな。


「人の世というのはわからんものじゃ。役に立たないと思っていたものほど役に立つ。不思議な世界じゃな。」


 さて、カレーとやらに必要な材料は幸いこの無駄に広い厨房に揃っているようじゃ。

 一つ儂が腕を振るってみるとするかのぉ~‥‥。

 そしてカールが記してくれた通りにカレーとやらを作り始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る