第8話 グリア

 エリスに連れられてきた部屋の椅子に腰かけ何が始まるのか心躍らせていると、何のことはない冒険者としての心構えなどなどを延々と聞かせれた。新たな魔法の知識ならば吸収するに値するものじゃがこうもつまらない知識を放り込まれてものぉ。

 無駄に長いと思いつつ右耳から左耳に話を聞き流していると‥


「そういえばあなた何て名乗るつもりなの?流石にそのまま魔導書グリモアって名乗るのは無理があると思うわ。」


「むぅ‥‥とは言ってものぉ。儂は昔からそう呼ばれてきておるし、それ以外の名前なぞ考え付かん。」


「じゃあ私が考えてあげるわ!!」


 ふんっ!!と胸を張ってエリスは言った。そして儂の考えなど捨て置くがごとく一人名前を考えるため頭を悩ませ始めた。


「グリモア‥‥グリ‥‥グリ‥‥グリ子っ!!」


「死ぬか?お?」


 先ほど使ったブラックホールを再び掌に出現させ、頭の悪い名前を考えたエリスを脅す。


「あ、あはは~じょ、冗談よ~‥‥半分は‥‥」


「もう良い、自分で考えるのじゃ。お主に任せるとろくな名前が浮かんでこなさそうじゃからのぉ?」


 さて、自分で考えると言った手前何も案が思い浮かんでこない。名付けとはこんなにも悩まされるものなんじゃな。

 そういえばだいぶ昔じゃがカールが儂のことを別の名で呼んでいた時期があったな。確かあの名は‥‥


「‥‥‥グリア。」


「え?グリア?」


「そうじゃ、儂の人間としての名はグリアで良い。」


「そう、じゃあこれからグリアって呼ばせてもらうわね。カードにもその名前を刻んであげる。」


 エリスは一枚のカードを取り出し、そこに魔力を込めた筆で名を刻み始めた。

 そして名を刻み終えるとそれを持ってこちらに歩み寄ってきた。


「はい、あなたの冒険者カード。」


「む?カールのは金色じゃったが‥‥何で儂のは銅色なんじゃ?」


「さっきの話聞いてなかったの?依頼を何度もこなせばブロンズからシルバー、ゴールドってランクが上がっていくのよ。グリアはまだ冒険者に成り立てのブロンズだから銅色のカードなの。」


 そういえばそんなことも言っていたような気がしないでもない。


「うへぇ‥‥めんどくさそうじゃ。」


 まぁ気長に依頼をこなしてればいつの間にか上がるかの。儂には寿命という概念がないから気長にやってみるのじゃ。


「まぁ、グリアの力なら討伐系の依頼をこなしてればすぐに上がるわよ。私からも受付嬢にあなたには討伐系の依頼を多く回すよう言っておくから。」


「それは助かるのじゃ。」


 今回のような採取の依頼も悪くはないができるなら何も考えずに魔物を倒せばいいだけの依頼のほうがはるかに楽じゃ。


「さて、じゃあ儂は日が落ちる前に帰るとするかの。」


 冒険者になることもできたし、日が落ちる前に帰りたい。そして立ち上がるとエリスに引き留められた。


「ちょっと待って。帰るってまさか、カールの家に帰るつもり?」


「そのつもりじゃが?」


「‥‥すごい言い辛いんだけど、多分もうカールの家はないわよ?」


「なんじゃと!?それはいったいどういうことじゃ!!」


 エリスに問い詰めると彼女はカールが以前言っていた言葉を教えてくれた。驚くことにカールは自身が死に、儂が家から出たときに発動する魔法を仕掛けていたらしく、それのせいで家が消滅しているらしい。


「まぁ、カールの魔法の研究資料を入手したいと思っている邪な人間たちはたくさんいたからね。カール自身そのことはわかっていたから、自身の研究の全てが詰まっているあなただけ残して、それ以外を全て抹消したのね。」


「まったく儂の知らないところでとんでもないことをしておるな。」


 まぁ、カールらしいっちゃらしいがのぉ。しかし、そうならば帰る場所がなくなってしまった。


「帰る場所がなくなっちゃったなら私の家に来ない?カールからあなたのこと頼まれているし、それに無駄に大きい部屋もたくさん余ってるわ。」


「ふむ、ではその言葉に甘えるとしよう。」


 ここはエリスの厚意に甘えるとしよう。そのうち家を買えるぐらいお金がたまったら一軒家でも買って魔法の研究を再開したいのぉ。


「それじゃ、私の家に案内するわ。」


「ギルドの仕事はもういいのかの?」


「仕事なんてもうとっくに終わってるわ。今日はもう上がりよ。さ、早く帰ってゆっくりしましょ?」


 ぐ~っと背伸びをしながら部屋を後にするエリスの後ろに着いていきギルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る