新しい夜明け

第6話 初めての朝

 昨日はどれほどモンスターと戦っただろうか。腕が上がらなくなるほどに剣を振った。体がボロボロになるくらいに攻撃を受けた。2人で戦ったからそれほどに苦痛に感じなかったが、自分の体を酷使しすぎてしまった。


 ーー「あんたたちが勇者かい?」

「見劣りしちゃうねぇ。」

「すぐに倒れそうだ。」

「弱そう。」

「これじゃ厄災に飲まれてしまう。」

「勝てない、あいつら無理だよ。」


「…闘熾と冒険なんて、しなきゃよかったよ。」ーー


「…はっ、はぁ、はぁ、はぁ…。」


 疲れのせいか、悪い夢を見てしまったようだ。夢と分かっても昨日の出来事だけでこれほどに身体がボロボロになってしまうという事実を考えると、悪い想像しかできなかった。


 窓の外を覗いてみた。まだ外は暗い。太陽の光が全くない。まだ2〜4時くらいだろう。疲れすぎて逆に眠れなかった。悪夢のせいでもある。


 とりあえず、気分転換にでも外を歩こう。気持ちをリフレッシュするために外へ出た。

 昼頃は暑かったがさすがに深夜帯となると寒い。体が冷えて風邪を引きそうだ。


 しばらく歩いていると、何やら声が聞こえてきた。


「ーを見つけて。私たちを見つけて。」


 なんだろう、この声は

 明らかに誰かに呼びかけている

 俺か?

 俺にしか聞こえてない、のか?

 いや、みんな寝てるから聞こえてないだけかもしれない。しかし、会話ができるとは到底思えない。

 …でも、なぜか懐かしい感じがする。遥か昔に聞いたことがあるような、例えるとするならばそんな感じだ。

 でもどこで聞いたのだろうか。


「探しに来て、私たちを。北の大門から出て、ずっと真っ直ぐ。そこには常闇の森がある。私たちはそこにいる。正確な場所はわからない。だから探しに来て、お願いー。」


 そこで声は途切れた。聞こえなくなった。

 呼びかけてみよう、と思ったが諦めた。

 よくわからない気持ちになった。

 疲れているのだ、と思い宿に戻ることにした。



 この異世界で新しい朝が来た。初めての朝だ。


「おはよう、闘熾。よく眠れた?私は全然眠れなかったや…。ふぁぁ…。」


「おはよう零奈。俺も眠れなかったよ。……ところでさ、頭の中に直接語りかけてくるなんて、ありえると思うか?」


 唐突に変なことを聞いてくるので零奈はぽかんとしていた。少し状況を整理したのか、答えてくれた。


「何言ってるのかよくわかんないんだけどね、モンスターがこの世界にいて、魔法もあるみたいだから、もしかしたらテレパシー的な何かで語りかける事はできるんじゃないかな?」


 適当な質問に丁寧に真面目に答えてくれたので闘熾もびっくり。確かに、と思わず納得。


 零奈の答えがもし正しいとすれば、謎の声は存在する、ということは常闇の森というところに何かがあるということだ。


「よし、零奈。北の大門を抜けた先に、常闇の森ってところがあるらしいんだけど、俺は昨日そこに呼ばれた気がしたんだ、頭の中に語りかけられて。だから、次の目的地はそこでいいか?」


 なんだかよくわからないことを言っているなぁと思いつつも、それを受け入れてあげるのが零奈の優しさ。わかったよ、と短く返事をして、2人は宿を後にした。

 次の目的地を常闇の森とし、そこでどんな困難が待ち受けているか分からない、闘熾はそんな不安な気持ちでいっぱいだった。それとは裏腹に、少し興味津々な一面もあった。

 そうして2人は北の大門に背を向け、常闇の森を目指すのであった。

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