第93話 真智子の父親

忙しくしていたある日の午後、携帯が鳴った。


番号を見ると真智子のナンバーだ。


商談中であったので、後でかけなおそうと思い、とりあえず着拒にして、ほっておいた。


しかしひっきりなしにかかる。


「・・・これは何かあったな。」


と勘が働いた。


仕事の一段落がついた後、彼女に電話をした。


電話口の向こうで泣いている。


「・・いったいなにがあったの?」


と聞くと、どうやら長らく行方不明だったお父さんが見つかったらしい。


ただその父親は危篤の状態で病院にいるということだった。


「・・どうしてわかったんだい・・?」


「・・わたし・・唯一おばさんとだけは連絡とっていたんだけれど、そのおばさんが連絡してくれたの。地元の福祉課から連絡あったって・・私に連絡しようか迷ったけどって・・。」


「・・・それで、おとうさん、どこにいるの?」


「・・防府の○○病院にいるらしいの。・・」


「・・わかった・・いますぐそこにいくから、待ってるんだ。いいね?」


自分はその日の仕事をすべて後輩に任せて、車で真智子のアパートについた。


「・・すぐ用意をして。まだ間に合うから・・」


「・・・え?わざわざ連れて行ってくれるの?」


彼女は驚いていたが自分としてはなんとしても彼女を父親が生きていいるうちに会わせたかった


「・・・当然でしょう、ここで行かないとぜったい君は後悔するぞ?」


自分は彼女を車に載せると、山陽道をただひたすら走った。


広島市内から防府までは100キロあまり、高速を飛ばせば病院まで90分くらいでつくだろう。


彼女が車内で言った


「・・でもね、わたし、まだ迷ってる、ほんとうに、あうべきなのかどうか。・・」


彼女にいう。


「・・親が親でなくても、子は子でないといけない、じゃないと君が一生後悔する。君をそうさせたくないんだ。・・」


偉そうなことを言っても、この銀次郎自体が、親と会うことを拒んでいる。


心で自分を嗤いながらも、そう言うしか無かった。


雨が降ってきて、車のフロントウインドにけたたましい音をだして当たる。


車は病院について、自分たちは急ぎ足で病室に向かった。


一歩遅く、その父親はたったさっき息を引き取ったという。


安らかな顔をしていた。


アルコールの飲み過ぎから肝臓を悪くしていたのだが、そのほか癌を併発、ある日血を吐いて入院していたらしい。


家族はおらず、生活保護に頼り、孤立無援の生活をしていたようだ。


彼女は顔を見たとたん、幼い頃見た父親を思い出したらしい。


「・・お父さん!!」


とその胸にすがり泣き出した。


彼女の泣き声が部屋中にこだまする。


自分はかける声もなく、ただ近くで佇むだけだった。

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