第92話 真智子の存在

その後、ちょくちょくあの真智子さんから連絡がある。


「・・お昼ご飯たべませんか?・・」


という電話だ。


彼女とは営業の時間が空いたとき、外で食事をともにすることがあった。


水商売をしている女性特有の営業だろう、会社で得意にしているバーの女性だから、相手をしないと悪いとも思った。


それにしても正直、銀次郎は真智子と話をしていて、心が軽くなることが多い。


ホステスとしてまだ新米だが、しょせんは銀次郎の母親と同じ世界の女である。


彼女のいう世間話、彼女が困っている問題、すべて銀次郎には自分のことのようにしてわかるのだ。


ホステスは一見華やかそうに見えるが実際は過酷な商売だ。


ツケが通用する店が多いが、もし客が払わなければ、それはその客を連れ込んだホステスの借金となる。


男の多くはそのホステスの身体目当てに通うが、ホステスの技量は、いかに肉体的関係にならず男を店に通わせるかにかかっている。それが売り上げにつながるから。


だから女の子もほうも、それなりにエステなどに通い、化粧品をふんだんにつかい、美容院を欠かさず、衣装も高級にしておく。


一方で長いアルコールの摂取、昼夜逆転の生活は、確実にホステスの健康を奪っていく。


ホステスとして売れればいいが、そうでなければ年齢と共に収入はしぼんでいく。


過酷な仕事だ。


こういう彼女たちの生活に、やれホストやら、やくざやら、最終的に覚醒剤にまで入り込むのは、こういうストレスが原因だ。


自分は幼い頃からそういう母親を見て、彼女たちの生活を感覚的に知っていた。


だから彼女の直面している問題や、仕事の苦労はわかった。


彼女が苦労話をするときに、


「・・そうだね、大変だよね・・。」


と同情で無く相づちを打つことができた。


彼女はまだ19で、その若さから引きも切らずに客が来るらしいが、それはそれで大変らしかった。


片方で自分も彼女に笑わせてもらうことも多かった。


一回などは床を転げて笑いそうになるほどこらえきれなかった


彼女たちの世界を聞かせてもらうのは面白い


「・・・あのね、あの広島カー○の選手のXXXね・・奥さんが店に来てね・・修羅場になったのよ。」


「・・・あの有名歌手の○○○朗はね・・実はすっごいMでね、うちの女の子の客なんだけれど、自分のお尻にね・・」


笑わないほうがおかしい。

涙がでるほど笑った。


「・・ありがとう、真智子さん、今日もほんとうに楽しかったよ。・・・だけど、大丈夫なの?そんなこと自分に話して。」


「・・ぎんじろうさんだから話すのよ・・」


「・・そうなんだ、でもこんな俺に営業かけてもしかたないぞ?だって俺は酒飲まないもの。」


「わかってる・・いいよ、これなくても・・」


「・・昼飯だったらさ、光栄だけれどさ、・・うちの取引先を接待しないといけないときは、君のところで君を指名するよ・・。」


「・・・いいんだよ銀次郎さん、そんなこと気にしなくて。」


過去の友人のほぼ全てと決別し、親類縁者と関わりをもたない銀次郎にとって、彼女の存在はありがたかった。

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