第72話 最悪の邂逅

ある日椿事が起こった。


こういう日が来るかもとどこかで覚悟をしていたものの、とうとうみどりとY子が邂逅する日が来てしまった。


自分がとある日、みどりと買い物に出かけた日だ。


自分とみどりが買い物から帰り、マンション・エントランスホールに入ろうとしていたころ、見慣れた姿の女が表れた。


Y子だ。


自分は大きい袋を胸に抱えながら息がつまりそうになった。


みどりは自分の前を歩いていた。


みどりはY子の方を見て立ち止まり、どうやら誰かわかったようだった。

驚いている様子も無く、


「・・あなた・・Y子さんね・・・。」


とじっとY子をみつめている。


一方Y子の目は怒りに燃えていた。


「・・・。」


自分はいささか慌ててしまって


「・・・みどりさん、家の中でちょっと待ってて」


とみどりさんをマンションの一階フロアから上へと促そうとしたがみどりさんは


「・・いいの・・・」


と動かず、半ば悲しそうな目でY子を見つめていた。


Y子は絞るような声で言い始めた


「・・ぎんじろうはうちの男じゃ・・・」


みどりはじっとY子をみつめたままだ。


一方Y子は肩を上げ、拳を握りみどりを見つめ続けている。


「・・・この淫乱女!!」


Y子は絶叫した。


続けて叫んだ。


「・・あんた、一回は他の男孕んで、じゃけえゆうて今度は銀次郎を利用しようゆうんね?・・・」


「・・・・」


みどりは悲しそうな顔をしてそれを聞いている。


「うちはそんな女が世の中でいっちゃんきらいなんじゃ・・・わたしにはぎんじろうしかおらん・・・ぎんじろう命なんじゃ・・あんたみたいな女には・・・ぜったいわからん・・!」


Y子は炎の女だった。

こういう行動にでることも、自分は予想しなければいけなかったが、もう遅い。


「・・もうよせ!Y子!」


そう声を荒げたしなめたが、Y子はちらりと横目でこちらを見て


「・・おとなしそうな女で、こういうのが一番おそろしいんよ・・ぎんじろう、わからんの・・?」


と言った。


「・・・もうよせ!それ以上言うんじゃない!」


みどりはそういう自分を制すかのようにY子の前に無表情ですっと出た。


間近にみどりを見据え、Y子の目が怒りに燃えていた。乱闘も辞さない面構えだ。

自分はこういうときのY子を知っている。


しかしみどりはすっとY子に頭をさげた。


「・・Y子さんのいうとおりです。・・・本当にごめんなさい・・。」


とその長い髪を垂らせながら、深々とY子に謝った。


その時間がずっとずっと長く続いた気がした。


Y子は一瞬状況が飲め込めない様子で、


「え?・・・・」


という顔になった。


「・・あなたの言うとおりです・・わたしはこの人を利用している・・。」


Y子の目にぶわっと涙が光り唇をかみしめた。

そしてくるりと背を向けたかと思うと、ハイヒールの音をカツカツと響かせながら、彼女は視界から去った。

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