第70話 みどりのアドバイス
みどりさんはそれからもさりげなく的確なアドバイスをし続けてくれた。
社長や上司、先輩との雑談はとても大切で、相手の趣味や好みを前もってちゃんと調べておけば好感度をあげられる。
会話が弾むだけで、社内生活の潤滑油となる。
出張に行った際、おみやげなどは絶対に欠かさず、また頼まれたことは絶対にやりとげ、常に
「使える奴だ。」
というイメージを外さないこと。
自分は彼女の考えの深さに時々舌を巻く思いだった。
彼女はほぼ過去を話さないが
” みどりとは一体何者なのか、いや「みどり」という名前でさえ本当なのだろうか ”
こういう疑惑が生まれることさえあった。
帰宅したとある夜、ソファに座った自分のネクタイをくつろげながら、彼女に聞いたことがある
「・・みどりさんのような女性が、自分といることに不思議に思うことがあるんだ。・・俺とぜんぜんレベルの違う世界の人間に思えるよ・・。」
彼女は自分の言にとりあわず
「・・ぎんじろうさんのそばにいて・・わたしみたいな女がなんの役にたてるか・・考えているだけ。」
と視線を落として彼女は笑った。
ほんとうに不思議だった。
鼻梁が通り、美しい髪をもち、澄んだ目をもったみどり。
有名美容院などでお金をかけ、ちゃんとした高価な服やバッグを買えば、ヴォーグの表紙でさえ飾れる気がした。
現に自分の会社では、みどりは美人として有名だった。
社長は女好きとして有名なのだが
「・・お前の女、スラリとしてべっぴんじゃのう。あんな女、流川にもおらんわ。」
(※流川とは、広島では有名な歓楽街)
とまで言ったことがある。
最近そのみどりが自分に勧めるのは、すこしづつお酒を覚えることと、ゴルフと麻雀だった。
それらはつきあいとして必要なときがあるという。
ゴルフと麻雀は、巧くなくてもいいが、人の本音を聞ける機会があるから、覚えておいたほうがいいと言った。
自分はそれらを聞きながら
「・・・麻雀はファミコンでおぼえることできるけど、ゴルフとお酒はなあ・・。」
と言った。
ある日など
「・・ゴルフはわたしも好きだから、今度いこうか。」
と彼女がいきなり言い出した。
打ちっぱなしにいくと、彼女は借り物のクラブでスパン!スパン!と長距離を飛ばし続け、自分は開いた口がふさがらなかった。
自分は9割空振りである。
そのたびに彼女はクスクスとしのび笑いして、
「・・ゴルフは残念ながらぎんじろうさんあってないようね。・・」
と言った。
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