第69話 内助の功

それからも自分は日本全国に出張にでるようにでかけて、忙しい日々を続けていた。


それにしても自分は会社で孤立を深めていた。


新製品の開発と、その全国展開には成功したものの、自分はいまだ会社の中では新参者であり、周囲の同僚からは


「何を生意気に」


と思われていたことも事実である。


社長は社員およびその家族を集めてバーベキューをするのが趣味であったが、あきらかに自分は孤立していた。


挨拶をしても無視されることさえ。


みどりもそのころは自分の妻のように会社のイベントなどには自分に帯同していたのだが、みどりもそんな雰囲気には気づいていた。


家にいたときみどりはふとこんなことを言ったことがある。


自分は会社の人間関係は一切話していなかったのだが


「・・あなたがお酒を飲まないことわかってるけど・・お酒を飲む人の中には・・素面の人に心を開かない人たちっているものよ。」


そういったことがある。


またこうも言った。


「・・・感情が低レベルなほど嫉妬も高くなるの。あなたは気にしなくていい。」


自分が家で、そとの夜景をだまって見つめていると


「・・いつだって仕事なんて辞めていいのよ・・また山陰をいっしょにドライブしましょ。」


と後ろから抱きしめてくる。


「・・・辞めてどうする・・ほかにいくところなんてないじゃないか・・あの社長だから俺を拾ってくれたんだから。」


「・・・。」


「君が知っているとおり、自分には家族も、財産も、学歴もない。・・そんな男が社会でのしあがっていくには、能力も必要だけれど、誠実さがなければ誰も相手をしてくれないように自分は思う。・・・」


彼女はだまってきいていた。


「・・・そんなぎんじろうさんだから私はそばにいるのよ。・・・」


「・・・みどりさん、寂しい思いさせてごめんね。心配してくれてありがとう。・・」


自分はそんなことを言ったかと思うが、いつしかと疲れすぎてそのままソファで寝てしまった。


彼女はそんな自分にいつも毛布をかけてくれていた。


朝起きると、自分はそのまま彼女のセットした背広を着る。


背広はすべて彼女のコーディネートだ。


薄いストライプの入ったグレーのスーツ。スーツより若干自己主張の強いストライプのはいったシャツ、控えめさと誠実さをアピールさせようと彼女のイメージで決定した薄め紫のタイ。


カバンには彼女の弁当と書類。


「がんばってくるよ。」


そういうと


「・・・よろしい、じゃ、行ってきますのキス。」


とみどりはいつも通りにこやかに言った。

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