第68話 キャンドルライトのディナーで
東京での新商品アピールも成功し、銀次郎の勤める会社の新製品は、全国から注文が集まるようになった。
社長は驚喜し、
「・・お前・・ようやったなあ!いま工場はフル稼働じゃ!このままやったら、うちの会社は全国展開できるで!!」
「・・社長、このまま安心したらいけませんよ。自分たちができることは他社もできるんです。これで安心せずに、もっと製品をバージョンアップするんです。」
とたしなめた。
「これからなんです・・・官公庁とタイアップして、メディアにも定期的に出られるようにしないと。・・イメージ戦略が大切です。」
と社長に釘を刺した。
「・・わかっとるがな!そんなこといわんでも。お前はほんまたいしたやっちゃ!」
よくも悪くも感情をかくさず、ときにはお調子者に見えてしまうのが社長の特徴だった。
このころになると銀次郎の生活は一変していた。
給料は依然と比較にならず、みどりは時計も大事だと、デパートでブライトリングの時計を銀次郎に買った。
帰りにはANAのホテルで水入らず、ディナーを食べるほどになった。
自分は今日の立場をすべてみどりさんのおかげだと思っている。
経済学のアダムスミス、ハイエク、マルクスなどは必ず読めと勧めてくれたのは彼女だった。
ほかにもきりがない。
マーケッティングの基本を知り、売り上げをあげていくためにはあいまいな言葉より、数字に頼るしかない。
データ分析を密にして、それを統計にすること。
今日では自分にとって当たり前のように備わっている知識、それはすべて当時のみどりさんのおかげだと言っていい。
ある日のディナーで、自分はキャンドルライトごしに彼女に語った。
「・・ありがとう。すべて君のおかげだ。」
彼女はただ微笑んでいた。
自分は腕についているブライトリングを見ながら少しため息がでた。
「・・・君と出会って1年過ぎたが、・・夢をみているようだ・・・。実は今も現実だと思えなくて夢をみているようなんだよ。」
「・・・。」
「・・君は新しい扉を俺に開いてくれたんだ。」
彼女は静かにこういった。
「・・以前にも、いったけど、あなたはもともと素質があった。それだけのこと。・・」
「・・なにか君にお礼をしたいんだけど、なんでもいい。いってくれないか。」
「・・うれしいけれど、私はほんとうにほしいものなんかないのよ。みどりは、あなたと過ごせていて、幸せなの・・それだけ。・・」
「・・・」
「これ覚えてる?」
彼女は自分が彼女と出会って1週間後、彼女にあげた婚約指輪、安物の細い指輪、それがついている細い指を自分に見せた。
「・・覚えてるよ。」
「・・あのときの、神社、山奥の神社で、あの虹が見えた神社であなたはこれを私の指にはめてくれたのよ。」
「昨日のことのようだね。・・・」
「わたしね・・あのとき、虹以外にもうひとつ感動したことがあるの。」
自分はみどりが何をいいだすのか静かに聞いていた。
「あなたは気づいていなかったかもしれないけれど、あなたはあの崖で、私を助けるために足に大けがをした傷口から、ジーンズに血が、その日も滲んでいたのよ。」
「・・。」
「それが私の手をひいて、神社の階段を上ったときも、それが滲んで見えていた。・・・あなた・・あのときも相当痛かったはず。」
「そして遠い山の眺めに虹が見えたの・・私はあのとき、『あなたに一生ついていこう』ってきめた。」
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