第67話 横浜と東京湾と
会社に届けをだして急遽午後からの休みをもらい、羽田に向かった。
「・・こんなのは俺じゃない・・・こんなのは俺じゃない・・」
そう思いながら車のハンドルを握り羽田まで急いだ。
駐車場から急いで待ち合わせ場所まで向かう。
すると、そこにY子はいた。
息を切らせて彼女に近寄って自分は言った。
「・・ごめん、待たせた。・・」
こっちを見上げ目が潤んでいる。
「・・・待つよ、1日でも、1週間でも・・・。」
車に入るとY子は思い切り抱擁してきた。
自分の頭を掴んで唇も重ねてくる。
Y子はそういう女だ。
いい意味でも悪い意味でも、自分を隠そうとしない。
落ち着いた後、自分は車を走らせた。
右側に東京湾が見える。
「・・・昨日の今日で、東京まで来てもらってごめん。」
Y子は外側を見つめて
「・・ええよ・・きにせんで・・かえって誰の目もありゃせんけえ・・気が楽よ・・。」
といった。
「狭い町だから『Y子の男はだれじゃ』ゆうて、うわさがたっとるんじゃろうなあ。・・」
と自分は半分うんざり思えてそういうと、彼女はだるそうに
「・・わたしは別にええ・・うわさが立って困るんは、ぎんちゃんのほうじゃろう・・。」
と言った。
けだるそうに外を眺めるY子は身体の線を強調したレディスーツと長いスカートを着ていた。
彼女の身体が午後の陽に映えて、美しく思えた。
「・・これが18の女だろうか。たった半年前までブレザーの女子校制服をまとっていた女だろうか。」
匂うほど女の艶をだしたその身体に、もう子供ではない大人の女を見た。
「・・わたしがずっと電話しとったん知っとったんじゃろ?」
「・・わかってたよ。・・」
Y子は思わずギュッとシフトノブにおいた手をひねってきた。
「・・いたい!・・あぶないだろ、高速で・・・。」
というと
「・・うちの痛みに比べたらこれぐらい・・。」
と悲しそうな顔をして外を見ている。
「・・・東京、初めて来たんだろ?どこへいきたい?」
と聞いてみた。
「・・・しずかなところなら・・どこでもええよ。」
と言った。
「・・・そうか、じゃあ、反対方向だけれど、横浜にしよう。」
自分は高速道をいったん降りて、また反対側からの料金所からかけあがり、車を横浜へと向かわせた。
横浜はこのあたりで銀次郎が一番好きな街である。
これだけ風景に恵まれた港もないだろう。
海をわたって高速道路が縦横に走っているおかげで、高い場所からあらゆる角度で港と海が見渡せる。
自分はお腹を空かせているであろうY子さんを中華街に連れて行き、食事を終えた後、港全体が見渡せる丘まで向かった。
しかし、どこへいってもY子の悲しそうな目はとまらない。
「・・・すごいよね、横浜。これほど大きい港、少なくとも広島の周辺にはないよ・・。」
自分がそう言っても彼女は遠い目をして向こう側をみつめているだけだ。
「・・悪いけど今日疲れた。・・休ませて。」
と彼女は言った。
それはそうだろう、早朝から起きて生まれて初めての飛行機にのり、来たことも無いような街にいるのだから、緊張もしているはず。
近くのホテルに宿をとった。
部屋に入ると、Y子はいきなり自分を抱きしめ、こちらを哀願するような目で見てくる。
自分が彼女に口づけをしてひざまづき、その下の胸に顔をつけると、自分の額に何度も彼女は何度もキスをしながら
「・・こうやっとらんと・・いっしょにおるような気にならん・・なんでなんじゃろう・・。」
18とは思えないその大きなふたつの丘が彼女がもっとも弱点にしている部分であるが、そのふたつの丘を思い切り味わった後、その頂点にある突起物を軽く噛むと彼女は
「・・っうぅ・・」
と熱い息を漏らした。
彼女とつながっているとき
「・・大好き、大好き、大好き・・誰にもやりとうない・・。」
彼女はそういった。
ひとしきりの行為が終わった。
机と椅子には彼女が投げたジャケットとスカートが散らかっている。
彼女は綺麗な肩を見せながら、無言でむこうを向いている。
彼女の肩越しに、横浜の夜景が見え、港のどこかが淡い明滅を繰り返している。
彼女の肩があまりにも寂しそうだったので不安に思い肩に手をかけると彼女も片手で自分の手を掴んだ。
しばらくして反転し、自分の胸に彼女は顔を沈めた。
「・・・いまだけでも、わたしはしあわせ・・。」
”いまだけでも”
という言葉が、頭から離れなかった。
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