第65話 菜の花の色をそのままに・・
いくら生活が変わっても、取り巻く環境がかわっても、みどりさんはそのままだった。
広島の田舎町を彼女はかろやかに歩く。
「・・ねえねえ、わたしこの町ってほんとうにきれいだと思う。」
と自分にとっては代わり映えしない昔からの風景を彼女は嬉しそうに見る。
モンシロチョウの舞うキャベツ畑、太田川の川辺を飾る菜の花の沖・・
彼女はあまり生活に変化を求めない。
お金にもうあまり不自由していないのだから、もっと自分の好きな服を着なさいといっても、彼女はそこらへんのしまむらみたいな店で済ましてしまう。
彼女と土手に座って考えてみた。
”・・自分はこの風景を一度だって意識してみたことないけれど・・彼女と座っていれば、きれいにみえてしまうものなんだなあ。・・”
そう感じた。
そういえば自分はこの広島からでたいでたいとばかり感じていた。
できればもっと都会に
もっとできれば外国のどこかに
でもそれは必ずしも正解じゃないんだなあと、みどりさんを横にして思う。
ちゃんと見ようとして見れば、どこだって美しい。
たしかにみどりさんを手に入れて、自分にも周囲に見える風景がすべて変わってきた。
もちろん場所は同じで空気も同じなんだけれど、川の水面やら、菜の花の黄色までが、とても美しく見えるのだ。
「・・そうだね・・俺、気づかなかったけれど、こんなにきれいだったんだね。」
とみどりさんに言った。
自分が宮島とか鞆の浦だとか、広島の有名な景勝地に連れて行こうとしても彼女はふつうの町でいいという。
そういえば太宰がこんなことを言っていた
彼はどんな場所に行っても、そこの人間の性格と、土地柄がわかってしまうから、どんな風景を見ても、あまり心が動かないのだそうだ。
だから、きれいなものを見て、きれいと感じる心をもつ人こそが、幸せなのだと言う。
たぶん、自分はみどりさんというフィルターを通しているから、この風景、菜の花もモンシロチョウもきれいに見えているのかもしれない。
・・彼女を失ってしまったら、たぶんまたすべてが灰色に見えてしまうかもしれない
菜の花が菜の花の色に見えているうちにみどり1人を愛せるようにならなければ
そう感じた
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