第63話 麻痺する罪悪感
一方Y子とのことである。
彼女も銀次郎にとって代えがたい女性となっていた。
彼女と待ち合わせするとき、もう赤いファミリアではなくなっていて、クラウンになっていた。
Y子は当初これに乗ったときびっくりして、赤いふわふわの内装に腰を落として
「・・どしたんこれ・・」
と聞いてきた。
「・・型落ちのクラウンでさ、うちの会社の取引先が処分にこまって安く売ってくれたんだよ・・・。」
Y子はやさしさのこもった目で自分を見て
「・・ぎんちゃん・・どんどんえろうなっていくね・・」
と自分の手を握って言ってきた。
Y子とはもはや車の中では行為に及ぶことはなかった。
忙しくて、以前のように会える仲では無くなったが、それでも広島で指折りの高級ホテルで逢瀬を重ねた。
Y子は自分と違ってお酒が飲める。
彼女と会うときにはホテル最上階のレストランやバーで席を予約し、簡単な食事を楽しんだ。
当初Y子はいった。
「・・わたし、ぎんちゃんといつものファミレスでよかったのに・・・。」
「・・今まで寂しい思いもさせてきたし・・こんな俺に君はやさしくしてくれたんだ。君にはどんなことでもするし、したいんだよ。・・」
と自分がいうと彼女はさびしく
「・・どんなことでもか・・」
と外の夜景を見ながら言った。
自分はうかつなことを言ってしまったと思い、テーブルの上の彼女の白い手に手を重ねた。
彼女の表情は、キャンドルグラスの灯火に薄く照らされていた。
部屋の中で彼女は相変わらずみどりとは違う、積極的な姿勢で銀次郎を受け入れた。
「・・ぎんじろう・・ぎんじろう・・うちのぎんじろう・・。」
行為が終わると彼女はそれまでのようにタオルやウェットティッシュで銀次郎の顔や身体を拭おうとした。
彼女にはこういう甲斐甲斐しさがある。
自分は笑いながら彼女に話した
「・・いいんだよ、Y子さん、もう車の中じゃないんだ・・シャワー先に浴びておいで。」
「・・ええんよ、やらせて・・・うちがただしたいだけなんじゃけえ。」
彼女にとっては、あの壊れかけのファミリアの中も、この高層ホテルも変わらないらしい。
男がしたいと思っていることと、女が望んでいることは必ずしも一致しないらしい。
彼女はベッドで自分の腕に抱きついて、肩にうなだれかかり
「・・・・最近忙しゅうなったんわかるけど・・こんなホテルとかレストラン、私に気遣いせんでええ・・すぐ電話にでてえや・・・・。」
とY子は言った。
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