第5話 黄金の海

昨日とはうって変わって快晴の夜明けだった。


窓から見える日本海が黄金色に輝いて見える。


こんな日にもっと近くでこの風景を見ないのはもったいない。


布団で寝ている彼女を起こさないように自分は急いで着替えて彼女と出会った崖へと急いだ。


昨日彼女と出会った崖へと登ると、眼下一面の日本海に、朝日が黄金色のカーテンを降ろしていた。


なんと美しい光景だろう。


この世にきっと神はいる、そんな風景だった。


自分がそんな風景に見とれていると、近くに犬の散歩をさせている老人が通りかかった。


いぶかしげにこっちを見ているが、こういうときはこっちから挨拶するに限る。


(田舎とはそういうものだ)


「・・おはようございます。」


そういうと老人はこっちを見てこういった。


「・・・あんたあ・・・○○旅館のお客さんか?話はきいちょる、あのお嬢さんどうじゃった?」


老人のぶしつけな質問に驚いた。


というより、田舎の噂の早さに驚嘆した。


恐縮しながら


「・・あ、彼女は無事です。」


としか言えなかった。


「・・どこの娘かあ、わからんけど、大事にしてあげんさいよ・・・事情もっとるようじゃけえ・・・。」


頭をかきながら


「・・・はい、そうですね、おっしゃるとおりです」


としか答えようが無かった。あの女性とのことを詮索されているだろうが、ちょっと気恥ずかしい。


しかしこの老人も悪い人ではない、彼は彼なりに、ここに立っていたあの女性のことを心配しているのだ。


「・・・ほんで、なんであの女の子はここにおったんかいの?」


と立て続けに聞かれた。


自分だって知るわけがない。こっちからは聞いてはいけないだろうし、聞く気もなかったし、知ったとしてもあの子のプライバシーを自分は話さないだろう。


「・・・自分も知らないです、聞いていないですから。」


ともうしわけなく答えるしかなかった。


話題を変えてみた。


「・・・ここから見る景色は素晴らしいですね。」


朝日を見ながらそういうと老人は


「・・・ほうよ」


と言った。


そして


「・・戦争前にの、ここに日本の軍艦全部が集結しとったことがあった。それこそ何千何百言う船が、ここに集結しとった。あれを見て、子供の頃のわしは、『・・日本はぜったいまけん!』と思ったよ。」


とも言った。


そして言葉をつなげるように


「わしの父親はここから日本海海戦の光が見えたというちょった。・・・この海は・・・代々そういう海よ。」


と言った。


自分はこの言葉に心が震えた。


「・・この海を見下ろして、死にたいと思う人もいれば、目線をあげて、水平線に目をやって、生きる活力につなげる人もいる。・・自分はどっちになるのか。・・」


老人の言葉は、感慨深い言葉だった。

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