第88話 二巻発売記念SS ドレス! ドレス!


 今日は隆太さんの誕生日プレゼント……ウエディングドレスを着て撮影をする日だ。

 場所はホテル内にある写真館だ。結婚式場なども併設していて、式を挙げなくても写真のみ撮ることができる……いわゆるフォトウエディングというものらしい。

 控え室に入ると、壁一面に大量のドレスが掛かっている。

 オーソドックスなタイプからレースがたっぷりなもの、肩が全部出てるのと、マーメイドライン?

 世の中にはこんなにたくさんの種類のドレスがあるのか……!


「隆太さん、すごい量ですね。ウエディングドレスだけでもこんなに……隆太さん?」

 

 ふり向くとさっきまで横にいた隆太さんがいない。

 探すと、スタッフさんと熱心に話していた。


「すいません、事前に予約したのは白いウエディングドレス二枚ですが、今からカラードレスに変更することは可能ですか? 背景やライト、それにメイクについてもご相談させて頂きたいのですが。当日の提案になり申し訳ありませんが、気になってしまって」

「少々お待ちください。担当者を呼んでまいります」

「お手数おかけします」


 隆太さんはカラードレスのコーナーで真剣な表情で考えこんでいる。

 大切な仕事中のような表情で少し笑ってしまう。

 「写真を撮りたいです」と言われた時、私は深く考えず軽く「いいですよ~」と答えた。

 でも隆太さんはものすごく前から考えたみたいで、答えた瞬間にiPadを持ってきてサイトを何個も見せてくれた。

 ブックマーク内には、写真館やホテル、スタジオに出張プラン? まであって驚いてしまった。

 今は衣装を借りて外を歩き、それを撮影してもらう人も多いみたい。

 確かに浅草とかいくと着物を着て歩いている人を見かけるけど、あんな感じ?

 私自身は写真がそれほど好きじゃない。

 実家にいたとき、お母さんが「高校入学記念で写真を撮りましょう」と言ったけど、私は記念に何かしてくれるならカメラを買って欲しかった。

 あの頃はスマホについてるカメラの画質は悪くて、デジカメ全盛期。

 写真を撮れば漫画の背景にも使えるし、参考資料にもなるし……そうお母さんに伝えたら「もういいわ」と怒られた。

 結局お父さんがこっそり買ってくれたけど……あれ以来写真をちゃんと撮ったことはない。

 だから隆太さんが「これと、これは着てほしいんです」と事前に見せてくれたドレスを着ればそれで良いのか~程度だったけど、隆太さんはカラードレスの山の前から動かない。そして小さな声でブツブツと言っている。


「……失敗しました。この紫のドレス。とても咲月さんに似合うと思います」

「え? 派手すぎませんか? 私紫色の服なんて持ってないですよ」

「いえ、着てました。ハイネックで少しだけ白い柄があるものでした」

「ちょっとまってくださいね、記憶の海にダイブして思い出します……紫と白……ああ、あのゲームの推しキャラの色ですね、数年前に着てました、ええ?! 隆太さんの記憶力って……」

「あれはとても似合ってました。そうですよね、一枚白のウエディングにするなら、もう一枚はカラードレスを入れるべきでした。失敗です、自分が情けない」


 隆太さんが首を何度もふっている。

 まるで仕事で大失敗をした時……いやそれ以上のテンションで落ち込んでいる。

 そして担当者さんが近づいてきて口を開いた。


「お待たせしました。本日のご予約は滝本さまのみですので、お時間大丈夫ですよ。変更も可能ですし、追加料金を頂ければドレスを追加することも可能です」

「追加します」

「即答!」


 私はもう手を叩いて笑ってしまった。

 隆太さんがものすごく大変な仕事が決まったような笑顔でほほ笑んだのが楽しすぎた。

 スタッフさんはふたつのドレスを見ながら話し始める。


「髪型とメイクの変更は少し難しくなってしまうので、最初は髪の毛をほどいて撮影というお話でしたが、首の後ろにこう……編み込むような髪型だと両方のドレスに合うのではないでしょうか」

「口紅を変えることは可能ですか?」

「口紅のみ変更するのは大丈夫だと思いますよ」

「では、髪型はこちらで。ウエディングドレスの時の口紅は朱色で、紫のドレスの時にはオレンジ系に変更したいです」

「わかりました」

「またドレス時は教会で撮影したいのですが、カラードレスの時はこちらのお部屋を使用したいのですが」

「追加料金となりますが……」

「問題ありません!」


 隆太さんはテキパキと打ち合わせを済ませて撮影がはじまった。

 隆太さんもタキシードを着てるのに、カメラマンさんの横で指示出しばかりしていて、もう本当に笑ってしまう。


「隆太さん、一緒に撮りましょう!」

「はい」


 私が引っ張り込んで、やっと一緒に撮影できた。

 今まで写真撮影が苦手だったけど、今なら分かる。

 写真はそれの時間を記念に残し、見たい人が撮りたがるものだと。

 お母さんは私の中学校の時の写真を撮りたかったのね。悪い事したな。

 今度帰省したら隆太さんと一緒に一枚くらい撮ろうかな。そう思った。

 


--------------

これでオタク同僚1.5(番外編)の更新を終了します。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


本日1/17,オタク同僚の二巻が発売しております。

このSSのように笑顔で写真を撮っているふたりが表紙になっています。

書き下ろしもありますし、なにより挿絵がとっても素敵です。

ぜひ手に取ってみてください!


そして再びオタク同僚2.5でお会いできることを祈ります!


コイル

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