オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!2.5(番外編)
第89話 電車で見かけた隆太さん
午後八時をすぎた電車の中、ぼんやり立って外を見ていたら目の前の席が空いた。
ラッキー! この時間の電車で座って帰れることはあまりない。
喜んで座ってスマホを取り出して顔を上げると、見たことある姿が目に入った。
ん……?
私は座った席で最大限背を伸ばしてそっちの方向を見てみる。
んんん~~。
席に座った状態であまり変な動きをすると隣の人に迷惑だからギリギリ動ける範囲で。
しかも電車はかなり混んでいて、たくさんの人が立っている。
それでも隙間からなんとなく見ると……偶然同じ電車に隆太さんが乗っていた。
私が座ってる座席の前……私はど真ん中に座ってるけど、隆太さんは前の列のふちのほうに座っていた。
すごい偶然!
この時間帯は電車の本数が多いし、偶然同じ電車に乗るのは珍しいと思う。
LINEしようかな、でも話しかけられる距離じゃないし……ていうか何をしてるんだろうと見ていたら、手に雑誌を持って熱心に読んでいるのが見えた。
そのタイトルを見て、私は「ああ!」と思ってしまう。
隆太さんが持っていたのは『京都・奈良』のガイドブックだった。
先日テレビを見ていた時に、奈良公園が出ていた。
そこにいた鹿を見て可愛いと思ったし、なにより大仏が進撃の巨人と同じ大きさ……15mということに興味を持った。
あの巨人のリアルサイズ! それはちょっと見てみたい。
私は旅行は準備と片づけが面倒でそれほど行きたくないけど、隆太さんと結婚してからは別!
隆太さんは調べるのが大好きで、私はトコトコついて行けばよいだけになった。
荷物も服だけ持って行けば、あとは全部隆太さんが準備してくれる。
それに気が付いてから、旅行は全然嫌いじゃない、むしろ好きになってきた。
自分が苦手なので隆太さんに「調べるのとか、負担じゃないですか?」と聞いたら、目を輝かせて「俺はたまに行かない旅行のプランも考えてますから」と言われた。
世の中には行かないけど、この時間帯に家を出て、この電車に乗り……と考えるのだけが好きな「机上旅行部」という人たちがいるのは知っていたけど、さすが調べ事好きな隆太さん! お任せします!
それに私は小学校の時は日光に修学旅行に行き、中学校の時の修学旅行先は大阪だった。
だから京都奈良に行ったことが無かったのだ。
隆太さんは「仕事で京都は何度か行きましたけど、奈良は行ったことないですね、調べてみましょうか」と言ってくれていたのだ。
チラリと言っただけだったのに、ガイドブックまで買って調べてくれてるんだ……そんなことが嬉しくなって、雑誌を読んでいる隆太さんをちらちらとのぞき見した。
隆太さんは眉間に皺を入れて、真剣な表情でガイドブックを見ている。
そんな……仕事してる時みたいな真顔で見る本だっけ、ガイドブック。
長く睨みつけてからスマホを取り出して何やら検索をはじめて「ああ」という笑顔になり頷いた。
そして画面をパシャッとスクショする音が響いて、横の人がチラリと隆太さんを見る。
写真を撮ったと思われたのだろう。
隆太さんはそれに気が付いて前の席、横の席の人に頭をさげて謝っていた。
私はカバンで顔を隠して震えて笑ってしまう。
調べ事に夢中になってる姿が可愛すぎる。
オタク、調べてたことにアンサーがあると、すぐにスクショ撮るの分かる。
本があるのに、その情報を再び調べるのが面倒だから結局写真に撮ってしまう。
それをファボる。そのほうが楽に見つけられる、わかる。
私も発売前のグッズ情報があがって、その発売する店とか分かるとすぐにスクショしちゃう。
とりあえず写真欄にあると思うと、どこに載っていたのか思い出さなくて済むので安心する。
謝り終わった隆太さんはスマホをカバンに入れてガイドブックに戻った。
そしてポケットから付箋紙を取り出して、ぺたぺたと貼り始めた。
よく見ると、そのガイドブックには現時点で大量の付箋紙が貼ってあった。
もうベロンベロンになっている。
あんなに貼ったら、どこが重要か分からなくない?
もうだめ、可愛い。
こっそり隆太さんを見てるだけで楽しすぎて、私はカバンで顔を抑えてずっと笑っていた。
家がある駅に着いて、私は隆太さんに気が付かれないように後ろからこっそり降りた。
もうこうなったら、バレないで家まで帰れたら、ストックしてるフィナンシェ食べても良いミッションスタート!
え? フィナンシェ関係ない? ううん、なんか食べたくなって。どうせなら楽しいほうがいいし!
私は隆太さんから10mほど離れてコソコソとついて行った。
隆太さんは改札を出ると、コンビニに向かった。
私も追うように後ろから入って、こっそりと見学する。
あ、隆太さんと前に食べて美味しかったスイーツの新作が出てる。
あ、コンビニ限定のビール! 最近コンビニ限定でお酒が出てて、もう商売上手~~って思ちゃう。
お酒は重たいので基本的に宅配で買ってるけど、こういう限定品は、どうしても欲しくなってしまう。
どんな味かなって話したい。
隆太さんと一緒に飲みたい。
それにスイーツも一緒に食べたい。
こっそり付いてきたけど、やっぱりお話しながら一緒がいいの。
急にそう思ってコンビニの中を探したら……隆太さんは日用品コーナーに座り込み、雑巾を買おうとしていた。
「隆太さん!」
「咲月さん、偶然ですね。一本後だったんですか」
「ごめんなさい、実は同じ電車で……しかも目の前の席に座っていたので、こっそりと観察してしまいました」
「! 全く気が付きませんでした」
「すいません、こっそり見てて。でも……」
私は隆太さんが背中に背負っているリュックをトントンと叩いた。
「ガイドブック買ってくれたんですね。嬉しいです」
「あっ……恥ずかしい所を見られてしまいました」
「何をスクショしてたんですか?」
「あーっ……そこまで見られてましたか」
恥ずかしそうに隆太さんはスマホを取り出して、スクショされてた画面を見せてくれた。
「京都奈良間って、俺が思ってるより全然遠いんです。ガイドブックには常に一緒に乗ってるので近いのかな? と思ったら、かなり距離があって。京都も奈良も見ようと思ったら、これは時間が難しいぞ。でも新幹線みたいな高速移動できる電車があるのかな……と思って調べていたら、三駅程度しか停まらず奈良まで行ける電車を発見して、やはりあるのか……と安堵してスクショしてしまったんです」
隆太さんは目を輝かせて一気に語った。
見ると、スマホには何枚も乗り換え案内や、京都奈良のお店のスクショが並んでいた。
何か言うと、全部楽しそうに調べてくれて……すごく嬉しい。
私は隆太さんの腕にギュッとしがみついた。
そして隆太さんが手に持っていた雑巾を指さす。
「雑巾。あれですよね、ベランダの掃除用に買うんですよね?」
「そうです、忘れていて」
「実は私、会社の最寄りの100均で買いました。隆太さんと週末にお掃除しようって話していたの思い出して」
「咲月さん、ナイスです」
「こっそり見ていたお詫びに、新作コンビニスイーツをおごりますよ! どれがいいですか」
「一緒に食べましょうか」
私は隆太さんと手を繋いで店内を移動して、買い物をした。
こっそり見てるのは楽しかったけど、やっぱり一緒が一番楽しい。
そしてスイーツを買って家でガイドブックを一緒に見た。
旅行楽しみ!
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