第23話 地獄の通知

「ふああ……よく寝た」


 私はベッドの上でゴロゴロと転がった。

 今日は土曜日で滝本さんも福岡に行って居ないので、家には私しか居ない。

 フリーダム! と思うけど、正直それほど滝本さんが家にいるか、いないか、意識してない。

 逆に意識させない滝本さんは凄いなあと思うけど。

 

 というか、今何時なんだろ。

 私はスマホを引き寄せて画面を見て叫んだ。


「着信が26件……Lineの未読が84!!」


 スッと頭に浮かんだのは滝本さんに何かあったのでは?! だ。

 家族なので何かあったら私に真っ先に連絡があるはず。

 事故とか……?!

 すぐにログインすると


「おかーさんかよーーー」


 スマホを投げすてた。

 完全サイレントにしていた私は神だわ。

 この前休みの日に着信音オフらずに居たら朝から起こされて嫌な思いをしたので、あれからずっと休みの日はサイレントだ。

 滝本さんからもLineが入っていた。

『無事に福岡に着きました』

 良かった。私は

『楽しんでくださいね』

 と返した。滝本さんがLineしてきたのが10時で、私が既読したのが13時。

 起きた時間がバレバレで微妙に恥ずかしい。

 でもちゃんと連絡してきてくれて安心した。

 

「……はああ~~~~」


 残ったのはお母さんからのLineだ。

 これは何となくだけど、既読にするのを待っているのでは。

 既読にした瞬間に電話かかってくるパターン……。

 画面に表示されている一番上の通知だけ見ると『まだ寝てるの?!』だ。

 うへぇ……これ13時の今既読にしたら、めっちゃ寝てたのバレる。


 よし、これはスマホを見るのを忘れていた風にしよう! 


 私はスマホの電源を落として投げ捨てた。

 スマホちょっと見るの忘れてすいませ~ん。

 さて、お腹空いたけど、もうみんな通話しながら原稿してる気がする。

 私はPCを立ち上げてTwitterに『おはよー』と書いた。

 するとすぐにワラビちゃんから通話部屋に誘われた。

 休日はいつもダラダラ通話しながら作業をしている。

 つまり電話を繋ぎっぱなしということなのだが、ずっと話しているわけでは無い。

 なんとなく雑談しながら作業を進めるのだ。

 これが一番サボらずに原稿作業をすると個人的にお墨付きだ。


『お昼食べましたー?』ワラビちゃんがきいてくる。

「Lピザでも取って二食に……あっ! ちょっとまって、ご飯炊いて来る。神のカレーがあるんだった」

『何スかそれ』ワラビちゃんの声に、待ってて~~と言って、私は台所に行き久しぶりに炊飯器を開けた。

 お釜ちゃん、君に会うのは久しぶりだね。たぶん10日ぶりくらいにお米を入れて五合でスイッチオン!

 そしてPCルームで通話に戻る。

「滝本さんがカレー作ってくれたの。これがめっちゃくちゃ美味しそうで! 手作りの牛丼の残り汁が入ってるんだよ」

『ハーイ今からお皿持って行きまーす』

「来なくていいから。私のだから。ていうかワラビちゃん週末締め切りよ、書かないと!!」

『そうですね……黒井さんの所行ったら、延々とMCU見てスプラして終わりますね』

「それな」


 私とワラビちゃんは趣味が合いすぎる。

 ワラビちゃんが好きになったものは、基本的に私も好きだし、逆もしかり。

 お互いに沼に引きずり込み合い、合同本は数知れず。

 絵柄で言うと私はわりとリアル系だけど、ワラビちゃんは可愛い系だ。

 お互いにリスペクトしてて、超気が合う。


『食事も一緒にしてるんですか? 滝本さんと』ワラビちゃんが聞いてくる。

「家ではほとんど一緒に食べないよ。お互いに忙しいもん。今も福岡行っていない」

『気楽でいいなあ~~マジで黒井さんの結婚は羨ましい。私なんて割と地獄結婚決定してますからね』

「ああ~~成金と結婚するの、マジで決まってるの? 鬱の極みだね」

『マジでパリピですからね、本当にやばいですよ、私がオープンカーであいみょん歌ってたら見てみないフリしてください』

「いやいや、パリピってあいみょんなの? 浜崎あゆみとかじゃなくて?」

『……黒井さん、マジで20年前の話やめてもらっていいですか?』

「は~~お腹空いたな~~~ご飯炊けないかな~~」


 ワラビちゃんの家は山を何個も持っている古い家で、言うなれば財閥系らしい(詳しく聞いてない)。

 でも家的には色々苦しくて、成り上がり? のお金持ち? との結婚が望まれているらしく、何度もお見合い的なものをセッティングされているようだ。

 金持ちも楽じゃない。いや、オタ活的には楽だと思うけど。

 話しながら作業していたら、遥か彼方から何だか聞き覚えのあるような……無いような音が聞こえてくる。

 なんだこれは……


「家の電話だ!!」

『あ、じゃあ一回通話落ちますね』

「いやいや、出ないから大丈夫……」と言った頃には、ワラビちゃんは通話から落ちていた。

 はああ~~~~。我が家の家電って、まだ繋がってたのか。

 スマホメインにしてから、全く存在さえ忘れていた。

 うちのネットは全てケーブルテレビに頼っていて、電話も月200円で付けられますよ! と営業されて付けたのは何年前だろう。

 鳴ったのも何年ぶりだろう。

 しかも出なくても相手は分かっている。

 でも出ないと家の電話が延々と鳴るのだ。


「……はい」

「咲月~~~~?! 何回連絡したら出るの?! スマホくらい確認しなさい!! 何かあったらすぐに連絡があるんだから、それくらい家族として当然でしょう?! どうして唯一の連絡手段であるスマホを確認しないの?! 私に何かあったらどうするつもりなの?!」

 お兄ちゃんが何とかするのでは?? なんて言ったら殺されるから、小さな声で「はい」と答えた。

「私は今年の夏休み、帰ってくるときに滝本さんも一緒なの? 何日泊るの? その場合滝本さんも一緒なの? それが知りたくて何度も何度も電話してたのに、どうして無視するの? それをこの時期に毎年確認してるでしょ? それくらい分かってるでしょ?!」

 そういえば、もうすぐ夏で、帰省して仕事を手伝わされる悪夢の一週間が来る。

 毎年気が重くて二か月くらい前から胃が痛いのに、今年は忘れていた。

 『結婚しろ』と言われない気楽さだろうか。

「今年も行きます。滝本さんもご挨拶したいとの事で、一緒にいきます。期間は分かりません。滝本さんのお仕事もあるので」

「わかりました!!!!」

 

 そう叫んで電話はガチャ切りされた。

 はあああ~~~~。私は受話器を置いて、電源を引っこ抜いた。

 解約しよ、今すぐに。

 私はスマホの電源を入れて、ケーブルテレビに電話して電話を即解約した。

 仕事が遅すぎた。

 そして口の中に痛みを感じた。


「げ、口内炎」


 というか、そんなのさっきまで無かった。

 こんなことがあり得るのか。

 お母さんと電話するまで無かった口内炎が、たった数分の電話で出来るなんて。

 脱力して机に倒れこむ。同時にプピーと音がなり、ご飯が炊けた。

 私は滝本さん作・神のカレーを温めて食べることにした。

 お肉が沢山入ってて、すごく良い匂い。


「頂きます」


 昔から誰もいなくて手をしっかり合わせてしまう。

 これは生活習慣だ。

 一口食べると先日の牛丼の香りがふわりと残っていて、ものすごくコクがあり、美味しかった。

 出来立ての口内炎には染みるけど。

 

「はあ……」

 

 お皿を洗いながら深いため息をついた。

 本当に本当に帰省がイヤだ。

 でも。

 滝本さんがお母さんと電話してた時のことを思い出す。

 なんだか少しやり返してくれて、嬉しかったなあ。

 一緒なら、ほんの少し楽かも知れない。

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