第25話 昨夜の夢
チュンチュンと、雀のさえずりが聞こえカーテンの隙間からは朝陽が差し込んでいる。まだ微睡みの中、懐かしいみそ汁の匂いを嗅いだ気がした。
慌てて布団から這い出し台所に向かったが、直ぐに一人っきりの現実に引き戻された。
何を寝惚けていたのだろうか。キッチンに母が立ちテーブルでは父が新聞を広げていると錯覚するなんて。なんて馬鹿なのだろうか。自分の頭を思いっきり叩きたい。昨夜は、久しぶりに実家でそれも仏壇の前に布団を敷いて眠り、父の夢を見たからだろうか。
幼い頃の当たり前の日常。
それがどれほど幸せなのかなんて失うまでは分からなかった。
「紗季、みいつけた!」
「もうー、見つからないと思ったのに。」
「いやいや、いつも紗季はここに隠れるからな。見つけられない方が難しいよ」と言って、父がニヤッと笑った。
「だって、ここは紗季のお城だもん。パパの意地悪」と、幼稚園児の頃の私がほっぺたを膨らます。
「クローゼットがかい。うーん、それならパパの大切なものも紗季のお城に隠してもいいかな」
「仕方ないなあ、いいよ」と、幼い私が言うと父はにっこりと微笑んだ。
モノクロの断片的な夢だった。
私は霊感が強いらしい。
だから、住んでいるビルでは普通なら見えないはずの方々ともお友達だ。他ではさすがに友達にはならないけど、お見かけすることはよくある。それなのに最も会いたいと願う両親とは会えていない。夢にもほとんど出てきてくれない。父などは亡くなってから二十年近く経つのだけど夢に出てきたのは、亡くなって直ぐと母が亡くなった時ぐらいだったような。父に「薄情者」と、怒ってやりたい。
それなのに昨夜はリアルだった。幼い時の出来事を夢に見ただけなのかもしれないけど。
「何か伝えたいのかなあ。」
ぎしぎしと音をたてながら狭く急な階段を上る。
私の部屋も昨日のうちに簡単にだけど掃除をしていたので、それほど埃っぽさは感じないが窓を開けた。太陽が燦燦としていて、今日も暑くなりそうだ。
クローゼットの扉を調整しながら開けた。幼い頃に何度も無理な開け閉めを繰り返したせいで変な引っ掛かりができてしまい、開け閉めに少しコツを要する。知らない人が開けようとしても難しいだろう。
「まさかね」夢の中で父が言っていたことが何だか気にかかる。
クローゼットの中には高校生の頃に着ていた服がほとんどだ。高校卒業と同時に進学のために家を離れ一年もしないうちに母が亡くなってからは、ほとんど戻っていなかったのだから当たり前だ。いい加減に何とかしなくちゃ。
棚の上を見上げると、段ボール箱が整然と並んでいる。中に何を入れていたのか、はっきりと思い出せない。
椅子を使い棚から5箱の段ボール箱を下ろすと埃が降りかかった。昨日、棚の上までは掃除していないから仕方がない。窓を開けていて良かった。
箱の上に残った埃を払うと掌がざらざらとして、肌を通し放っておいた年月が心に纏わりつくような気がした。
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