第24話 懐かしき我が家
「けほっ」
慌てて閉ざされていたカーテンを開け窓を全開にした。
だが、その埃っぽさは変わらない。漏れ入る光に塵が照らし出され、鼻がむずむずしてくる。目までが痒くなってきた。普通に歩いただけなのに台所の床は気味の悪い軋みの音を立てる。私はそれほど太っていないはず。
誰も住んでいない家はこんなにも荒れていくんだと分かると、何だか急に寂しさに包まれていく。懐かしいはずの我が家なのに。虚しい。
「ダメダメ、とりあえず掃除しなくちゃ」と自分にカツを入れ、恐る恐る階段下の暗い物入の扉を開ける。虫が這い出てこないことを確認して、掃除道具を取り出した。う~ん、使えるのかな。電源を入れると掃除機が大きな音を出した。
二階建ての小さな我が家。3LDKに小さな庭があるだけ。その庭には亡き母が好きだった紫陽花が、雑草と競うかのように成長しピンク色の花を咲かせている。父の急死以降は、母が働きに出てよく一人で留守番をしていたっけ。その時には広く感じた家も今では住む人もいないのに狭く感じるのは何故なんだろう。
二階にある自室のクローゼットの扉は閉まりにくくなっている。父とかくれんぼをしていてよくそこに隠れた証だ。
感傷に浸っていたからなのか、存外時間がかかってしまい、朝から始めたはずなのに掃除を終えるともう夕方近くになっていた。
ピンポーンと、インターホンが響いた。ドアを開けると、お隣の末子おばあちゃんが嬉しそうに立っていた。
「紗季ちゃん、久しぶり。何年ぶりかねえ」
「お久しぶりです。もう、五年以上は経っているかも。母の三回忌の時にはいろいろと助けていただいて」
「いやいや。紗季ちゃんは見ない間にずいぶんと綺麗な女性になったね。」と、言う末子おばあちゃんは、体が小さくなった気がする。末子おばあちゃんは夕食を一緒に食べようと誘ってくれたが、悪いかなと思いつつも断ってしまった。掃除を終えた今の私は埃っぽいし汗臭い。それに末子おばあちゃんは同居するお嫁さんと昔から折り合いが悪かったはず。
お仏壇に末子おばあちゃんから頂いたきんつばをお供えして手を合わせた。線香の煙が両親と私を結び付けてくれる気がする。
「お父さん、お母さん。長い間、帰らなくてごめんね。これからは、時折帰るようにするからね」
今まで帰らなかったのは怖かったから。父だけでなく母さえもいない現実を受け入れたくなかった。
でも、三人で暮らしていたこの家を朽ちさせたくはない。思い出が多く詰まったこの家を大切にしたい。
今夜はこの部屋で寝よう。父と母と一緒に。
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