第2話 夜中のお茶会
彼らに導かれるままに私はちゃぶ台を囲む一員となった。
ここまでくるともう屋上なのに畳があることも小さなことだと感じる。差し出された藍色の座布団は少し使い込まれた感じがしたが座り心地は存外に良かった。ちゃぶ台の上には艶のある温習ミカン、ザラメのせんべいや飴などが菓子器に盛られていた。
「ほれ、お嬢さんも一息ついて」と言いながら先ほど目が合ったおばあさんが大きな急須で小さな花柄の湯飲み茶碗にお茶を淹れてくれた。
このお茶を飲んだりしたら何か困ったことにはならないか。たとえばここから帰れなくなるとか。急に年老いてしまうとか。私は笑顔を作りつつも内心不安でどうしたらいいのか戸惑っていた。もちろんこの状況下で口の中はカラカラに乾いている。でも、飲みたいという気はわかない。だが何も口にしなければしないで影のない方々の気分を害して怒らせて変なことになっても困る。
さて、どうしたものか。
「大丈夫だよ。ここにあるものを口に入れたからといって何も起こりはしないよ。しいていえばたくさん食べたからと言って太ったりはしないんだよ。なんせ、、、あの世の物だからね」と、隣に座っているおじいさんがにっと笑う。
私は仕方がないと覚悟を決めて湯飲みに入った茶をぐいっと飲んだ。
「あ、美味しい。」
さわやかなような懐かしいようなのど越しのほうじ茶だ。ふうっと一息ついて顔を上げるとみんなが優しいまなざしで自分を見ていた。やはり悪い方たちではないようだ。とりあえず体も何ともないようだ。
「本当に若いお嬢さんとこうやって茶が飲めるのはうれしいねぇ」先ほどにっと笑ったおじいさんが言って再びにっと笑う。
どう反応していいのか分からずに戸惑っていたがそんなことは関係なかった。
お爺さん対お婆さん達の1対4の攻防が始まったから。
「何を言うんだい。私たちだってまだまだイケてますよ」と、かっぽう着姿の髪を頭のてっぺんで団子にしているお婆さんが言うと、つかさず良家の奥様風のお婆さんが少し上品な口調で話す。
「そうですよ。私なんて生きてた時が82年、そのあとがまだ25年ほどですもの。まだまだこれからですわ」
「それなら私のほうが若いさ。だって、足しても100年になら、、、」
ショートカットのお婆さんが話し終わらないうちにおじいさんが反論する。
「それのどこがイケてるんだよ。意味わからん」
「いやいや、爺さん私らと会えて幸せだろ。こんなべっぴんさんたちに毎夜囲まれてさ」と、茶を入れてくれたお婆さんが言う。
「はい、はい、その通りです。婆さん達には口ではかないません」
「爺さんの負けだね。私たちを相手にするなんざあ千年早いわ」
「婆さん達は最強だ。おお怖い、くわばらくわばら」苦笑いしながらおじいさんは髪のない自分の頭をぺしっとはたいた。
とりとめのない話の中で賑やかな笑い声につられいつの間にか自分も笑っていた。仕事中は笑顔でいるよう努めてはいたけどこんなに自然に笑えたのは久しぶりだった。
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