第45話 ユーグ崩壊
第2遊撃艦隊も出撃し、大華連邦所属星系およびユーグを含む皇国近傍の星系への襲撃を開始した。第1遊撃艦隊もスラビアの補給艦隊への襲撃を繰り返している。一度有力な護衛艦隊を伴った補給船団に遭遇したようだが、ヒットアンドアウェイを繰り返し、敵の出血を強いることで、補給艦隊を策源星系まで撤退させることに成功している。第1遊撃艦隊はむろん無傷で撤収している。
第2遊撃艦隊により、着実に皇国周辺部の星系の宇宙関連設備が破壊されていった。
最初に第2遊撃艦隊により襲撃を繰り返されたユーグは大多数の宇宙空間施設および、防衛艦隊を喪失してしまい、国内宇宙船輸送もままならない状況に陥っている。
そして、ワンセブンの予測通りユーグからわが国に対して全権特使が送られてきた。建前上、わが国はユーグと戦争をしていたわけではないし、今さら終わった国ユーグと交渉するような案件は何もない。
竜宮星系に現れたユーグの全権特使を乗せた艦は、かなり旧式な軽巡だった。当方の
旧皇都出雲にあったユーグの大使館はユーグ艦隊が乙姫に侵攻した時点で閉鎖され、大使館員たちもユーグに送り返されており、わが国の在ユーグ大使館も閉鎖され大使館員はわが国に引き上げているので完全に外交ルートは閉じた格好だ。
今回は、わが国に対して、直接超空間通信で全権特使の派遣を告げてきたものだ。
受け入れるとの返答などしていないが、用はないからと言って、船を撃沈してしまう訳にもいかないため、いちおう迎えることにした。
もちろん、いちいち乙姫で迎える必要もないため、URASIMAで迎えることとした。
「……、いかがでしょうか?」
ユーグの全権特使が話を締めくくった。我が国の言葉を実に流ちょうに話すものだ。それだけは感心する。
俺が顔を出す必要はなかったのだが、お互い外交チャンネルは完全に閉じている関係で事前協議などできないため、仕方なく俺が相手をしてやった。
ユーグの全権特使が何を言っていたのか全く聞いていなかったのだが、もうユーグの処置方法は決めている。
「そちらの提案は一切受け入れられません。お引き取りください」
そういって俺は立ち上がり、事務方を引き連れ部屋を出ていった。
後ろでユーグの連中が俺の理解できない言葉で何かわめいていたが、無視は無視だ。
この会談が不首尾に終わった以上、ユーグは大華連邦に泣きつくのだろうが、自国が今にも崩壊しそうな大華連邦がユーグに対して手を差し伸べることはない。また、スラビア共和国もユーグのために大々的にわが国と事を構えることは不可能な状態に陥っている。
早晩ユーグ政府は瓦解して、無政府状態となることは今回の
おそらく来週には大華連邦から今回の大華連邦-皇国間の事変の収拾の提案のため特使が派遣されてくるだろうとワンセブンは予測している。
大華連邦からはわが方に差しだせるものは属国宗主権や周辺領土くらいしかない。腐った領土。正確には俺たちが腐らせた領土など皇国にとって全く不要である。
わざわざ向こうから特使を皇国によこしてくれるのなら、そのタイミングで、皇国は大華連邦に対して
その時点では停戦条件を呑めないだろうが、補給の細ったスラビアの派遣軍が最期のあがきに大華連邦に圧力をかけるとワンセブンが予測しているため、そこまでくればこちらが示す停戦終結条件を呑むだろう。
現在、竜宮の人工惑星工廠DAIKIでは、星系の精密星系探査図を作るための特殊探査艦を建造している。大華連邦、ユーグ、ミコナリアについてはその主要星系については精密星系探査図を戦前より皇国は有していたが、スラビア共和国内のものはほとんど保有していなかったための措置で、今後、スラビア国内で作戦展開を企図していくための下準備になる。最終的には、スラビア共和国を列強の座から引きずり下ろし、二等、三等国にしてしまうつもりだ。最終的には他の列強諸国がスラビア共和国を分割して、そこに勢力均衡点が生れるとワンセブンは予測している。その最終時期を早めるのが大華連邦処理後の我々の目標でもある。
こちらは、大華連邦の旧首都惑星にあるスラビア軍大華連邦人民解放軍司令部内にある参謀長室。
参謀長のカリーニン中将が最近の日課である占領下にある各星系への派遣軍の補給状況の確認を行っている。机上のスクリーンに映し出される数字はほとんどが黄色、中には赤色の数字もり、補給充足率が正常であることを示す白色の表示はほとんどない。
輸送船団による物資輸送の平均損耗率がいまでは30パーセント近くまで上昇している。ここでいう30パーセントの損耗率とは、本国から先端の占領軍に届けられるべき物資の30パーセントが失われていることを示している。
上司である、軍司令官アントーノフ大将にも未だ中央への帰還命令はなく、最近は非常に機嫌が悪い。
ピコピコ、ピコピコ。
参謀専用メールが着信したようだ。差出人はいつものように参謀次長。
メールの内容は、
「皇国との停戦交渉に失敗したユーグ政府が
とのことだった。『皇国』という言葉を見聞きすると最近は嫌な予感がしてしまう。
参謀長のこの自分が予感など非科学的なものを信じてはいけないとは思うものの、どうしてもその嫌な予感のために不安な気持ちになってしまう。
そういった気持ちを振り払い、このままじり貧になり立ち枯れる前に、現在の物資で可能な作戦を強行し、大華連邦へのとどめの一撃を与え、有利な条件での停戦を実現する必要がある。
輸送船団への襲撃艦隊の挙動から、異常に高い錬度を持った複数の小規模艦隊が、想像を超える連携で輸送船団を
ただ、大華連邦以外の勢力がわれわれの船団を襲撃する理由はない。そういった作戦能力のある勢力は『皇国』のみだが、それこそ、わが国との全面戦争を決意していなければ、あの国が他国領内まで出張ってこういった形でわれわれの戦争に首を突っ込む理由がない。
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