第46話 対大華連邦宣戦布告


 スラビア軍大華連邦人民解放軍は旧大華連邦首都星系に集結している大華連邦派遣艦隊(解放艦隊)から決戦艦隊を編成した。


 作戦を遂行するため精鋭を艦隊から抽出し決戦艦隊として再編成したものだ。実際は補給の充足率の関係で作戦遂行中に物資、特に推進剤の欠乏をきたさないと判断されたぎりぎりの艦隊編成である。


決戦艦隊(解放艦隊より抽出)

巡洋戦艦×2

重巡洋艦×8

軽巡洋艦×8

駆逐艦×24

補給艦×2


 この決戦艦隊をもって、途中戦闘行為を極力避けて消費物資を節約しつつ、大華連邦新首都星系エンアンまで一気に進出し、大華連邦に対し城下のちかいを迫る作戦である。作戦そのものは単純であるし、この戦力にしても星系防御施設、惑星防御施設が未完成状態であろう大華連邦新首都星系の宇宙関連設備の破壊および惑星に対する無差別軌道爆撃は可能であろうと見積られている。


 作戦予定期間は一カ月、30日間を見込んでおり、それ以上相手側に粘られれると推進剤などの消費物資の欠乏により決戦艦隊は戦闘能力を著しく低下させ策源地である旧大華連邦首都星系への帰還も難しくなる。





 ワンセブンの予想通りユーグが崩壊し、大華連邦の衛星国家ミコナリアも同様の道をたどった。ただ、ミコナリアの住民の生活水準はもともと周辺国と比べかなり低かった関係で数少ない宇宙関連設備が破壊された程度では住民の生活にはほとんど影響はなかったようだ。逆に、悪い意味で列強に伍そうと無理を重ねていたユーグは悲惨で、各所で暴動なども起こっているようだ。



 スラビヤの艦隊が大華連邦旧首都から新首都星系エンアンに向かって出撃したとの情報が入った。もちろんワンセブンの予測通りだ。その情報は、大華連邦がせいぜいあがいてスラビヤ艦隊に対し少しでも出血を強いるよう、大華連邦にも伝わるように手配済みである。



 先の情報から間を置かず大華連邦から我が国との事変を収拾するための特使をこちらに送ったとの連絡が入った。こちらもワンセブンの予測通りである。


 先日のユーグからの全権特使と同じようにURASIMAで迎えるつもりだ。すでに、陛下から対大華連邦に対する開戦の詔書はいただいておりいつでも宣戦布告は可能である。



 そして、迎えた大華連邦特使団との会合。


「お話はお伺いしました。このたびの事変のいきさつなど見解の相違もあるでしょうし、今回のお話はなかったということでそちらへの回答とさせていただきます。

 それとは別に、わが国から大華連邦政府へお伝えしたいことがありますので、この書面をご確認ください」


 皇国と大華連邦間のこのたびの事変は大華連邦が一方的にわが方に対し侵攻してきたことに端を発している。当方は、表向き大華連邦の侵攻艦隊を撃退しただけなので瑕疵かしは全くない。そのことは先方の特使も十分承知しているのだろう。ただ停戦したいというだけで、当方が矛を収め、大華連邦の復興に協力するはずがないだろう。


「特使閣下。せっかくですから、書面はここで確認されたほうがよいでしょう。不明な点があればお答えしますので」


 ニッコリ笑って大華連邦の特使を見た。この特使は以前わが国に大使として駐在したこともある人物で、わが国の言葉も流ちょうに話すこともできる。また、ファッションセンスが抜群ということで一時期、話題になったこともある紳士である。


 さすがにこの状況での書面の交付である。いっぱしの教養のある特使なら内容などは推して知るべしだな。


 おそるおそる、手にした書面を開封し内容を一読した特使が、


「確認しました。それで、閣下の前で、こうやって確認した以上、閣下の方から何かうかがえるということでしょうか?」


「そういうことです。大華連邦に対するわが国の戦闘行為を停止するための条件ですが、お国が持っていらっしゃるわが国周辺領域での星系間、星系内での自由航行権および星系内資源の採掘権のわが国への譲渡ですな。わが国周辺領域のさす具体的星系名は追ってお知らせします」


「それでは、大幅な領土割譲と変わらないではありませんか?」


「いえいえ、当方は大華連邦に属する星系を統治する気は全くありませんのでその点はご安心ください」


「分かりました。国元くにもとに帰り報告だけは致します」


 特使の顔を見るときっちりと整髪されていたはずの髪が若干崩れている。


「特使閣下の帰国に対し当方はなんら妨害をいたしませんが、さきほど書面を手渡した時刻をもってわが軍は大華連邦に対して自由の行動・・・・・をとりますのでご注意ください。それでは失礼します」


 椅子の上で疲れた顔の特使とその随員たちを残して事務方を引き連れ俺は退出した。


 今回の会談では、先日少佐に昇進した吉田りょうこも伴っている。涼子に大舞台での場数を踏ませようという腹積もりだ。


 吉田家も涼子の父親である当主の吉田伯爵、涼子の兄にあたる長男など乙姫に屋敷を構えて活動を始めている。俺としては気心の知れた涼子に吉田家の後を継いでもらいたかったが、他家の問題だけに、さすがにそこは難しい。


 涼子はオフィシャルでは俺のことを村田閣下と呼ぶがプライベートな時は艦長と呼ぶ。子供のころ旧皇都惑星出雲にある俺の屋敷に父親に連れられて来た時は秀樹おにいちゃんといって俺を追いかけまわしていたんだがな。


「艦長、なんだか、あの特使さん、可哀かわそうでしたね」


「涼子、そういった感情は国民に向ければいいだけだ。よその国の人間に向ける必要はない。我が国の国民の命は、敵国民すべてよりも重いと思った方がいいぞ」


「分かっています。一時の感情に流されるなと父からも言われています」


「そういった感情を持つことは涼子の美点の一つだと思うが、涼子もそのうち大きな責任をもつ立場に立つのだろうから、何を優先しなければいけないのかはしっかり肝に銘じておかなくてはいけないぞ」


「ありがとう。秀樹おにいちゃん」


 急にそんな言葉で呼ばれると照れるじゃないか。






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