第44話 乙姫
竜宮星系、惑星乙姫。
惑星出雲奪還後も乙姫は引き続き皇国の首都とされている。
首都としてのハード面も順調に整備が進んでおり、今では乙姫は新皇都と呼ばれ、出雲は旧皇都と呼ばれている。
すでに、新皇都乙姫は政治の中心、旧皇都出雲は経済の中心という位置づけ、住み分けが自然とでき上っており、各々の政治、経済については、
皇国議会はクーデター政権時は停止されおり、その後の出雲での
とはいえ、
建設局は、クーデター前は、建設省という名称だったが、新皇国では局という形に名前は縮小している。建設以外の省庁も全て局という名前に変更されている。権限自体は省庁時代とほとんど変わりはない。ただ一点、すべての局は統制部の一部局という形にしている。局長が局のトップになるわけで、もちろん担当大臣などはいない。統制部の部長は当然だが、この俺、村田秀樹公爵閣下である。次長はいまのところ空席だ。強いて言えばワンセブンということになる。
新たに竣工した巡洋駆逐艦四隻が、竜宮と乙姫との第1ラグランジュ点L1で公転する大型艦製造工廠DAIKIから艦隊集合点、L2に浮かぶURASIMAへの移動を開始した。
この四隻の竣工に伴い、これまでの遊撃艦隊を第1遊撃艦隊とし、新たに竣工したこの四隻で第2遊撃艦隊を編成している。
第2遊撃艦隊は、URASIMAで必要な物資の積み込みを終えればそのまま出撃だ。
補給は、余裕のある第1遊撃艦隊の給兵艦が第2遊撃艦隊の補給も受け持つことにしている。
第2遊撃艦隊の主な任務は、皇国に距離的に近い大華連邦の有人星系の宇宙関連施設の破壊だ。
具体的作戦目標は、星系内にある恒星間通信施設、軌道エレベーター、小惑星採掘施設、ガス惑星軌道上のガス採集井戸などの諸施設の破壊、民間船を含めた宇宙船舶の破壊ということになる。もちろん、防衛艦隊が星系内に存在すれば最初にそちらを撃破することになる。
要は星系内部から星系外への進出を不能とし、孤立した星系を順次作っていくわけだ。同時に皇国周辺の星域の高価値の宇宙空間構造物を破壊することで、星系の実質的戦利品的価値を低下させ、誰も欲しがらない星域を作る。その無価値な聖域を連ね皇国の周辺に
最終的には、皇国を囲む周辺の有人星系の文化レベルを、皇国と比べ2~3世紀は遅らせた状況にとどめるつもりだ。
もちろんユーグと大華連邦の属国のミコリアナの全有人星系も緩衝星域帯の対象にする。従って、もはや国家としての存続は不可能となるだろう。ワンセブンの試算ではミコナリアで早期にかなり深刻な飢餓が発生するようだがやむを得まい。
第1遊撃艦隊の通商破壊戦により、スラビアの大華連邦派遣軍を立ち枯れさせた後は、皇国近傍のスラビアの有人星系も同じように緩衝星域帯としてしまうつもりだ。その先のスラビア所属星系に対しても通商破壊戦は続けて、最終的には、スラビア共和国を皇国方面から完全撤退させるつもりだ。その過程で国力の低下によりその先に存在する列強にスラビアの中央星系群が飲み込まれ亡国の可能性も出てくる。俺は計算結果を聞いてはいないが、その辺りの試算はワンセブンならとうの昔に計算済みのはずだ。
初期のワンセブンの計画では、数世代遅れの工業製品などを皇国からこの緩衝星域帯内の有人星系に輸出し、見返りとして星系内の鉱物資源などの採掘権などを得る予定だった。そういった目途が立たないうちは、第三国との貿易に支障を
初期の見積もりと比べ、予測値の上限近くまで皇国の経済が回復しており、今後皇国内の内需と資源供給だけでも経済が回るとの試算の元、正式に大華連邦へ宣戦布告し、講和条件として周辺星系内での採掘権を得る方向に方針転換した。大華連邦への要求はそれなりに厳しい物とはいえ、現在もスラビアとの戦闘状態の続く大華連邦は早期に講和に応じるものと思われる。
因みに皇国経済の回復要因は、官僚組織の簡素化と、企業の経営者の刷新が最も大きな要因であると分析されている。
ここは、惑星乙姫の新市庁舎の市長室。
いまでは、乙姫の真の中心ともいえる旧市街地をめぐる環状高速道路の工事中の高架橋が偏光ガラス製の窓から見える。工事は最終段階に入っており、もう
市長である西田幾一郎が自分が老いて死ぬまでにはと夢想した光景が夢以上の規模で現実化している。
西田の秘書の伊藤清美は、市長室の隣の秘書室で真面目に仕事をしており、今では部下が四人もいる管理職である。それでも、西田にお茶を届けるのは自分の仕事と認識しており、今も、
「お茶をお持ちしました」
「なんだか、あらたまった言い方だなー」
「それはそうです。大市長さまに対して今までのような軽口をきいていては部下に示しがつきませんので改めることにいたしました」
「それじゃあ、つまんないじゃないか」
「つまる、つまらないの問題ではございません」
「えー。今まで通りでやってくれよ、ねー、清美ちゃーん」
「それと、これからはその清美ちゃーんはやめてください」
「それじゃあどう呼ぶの?」
「秘書室長、または、伊藤室長とお呼びください」
「え、えー。まあいいや、それで伊藤室長」
「なんでしょうか?」
「建設の始まった第2都市、第3都市の名称なんだけど」
「名称は現在公募中ですが」
「僕にいい名前の案があるんだよ」
「伺いましょうか」
「以前からもそうだけど、乙姫の発展はひとえに村田公爵家の発展にかかっているわけだ」
「その認識で間違いはないと思います」
「だろ。そしたら、地元とすれば大いに村田家に媚びるのもアリだと思わないか?」
「おっしゃられることは理解できます」
「と言うことで、第2都市の名前は村田、第3都市は公爵の下の名前をとって秀樹はどうだ?」
「市長、発想は良いと思いますがあまりにあからさま。
「だめか?」
「ダメダメです。公募に期待しましょう」
「シュン」
「口で言っても仕方がありません」
「だけど、いまのところの公募名称の一位、二位は『鯛』と『平目』だろ? ほんとにそれでいいのか?」
「それは、……」
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