　大華連邦が自領の反乱惑星に対し惑星破壊兵器を使用したころ。

　皇国内では、航宙軍、特に航宙軍本部に対する世論の悪化は止（とど）まることを知らず、航宙軍本部の上層部の罷免（ひめん）を求める声が日増しに強くなってきており、皇国政府も皇国民の声を無視できない状況になってきている。

　そういった状況を一挙に覆（くつがえ）すべく航宙軍本部が自前の航宙軍特殊戦部隊を使った暴挙に出ようとしていた。武力による政変、クーデターである。

　航宙軍本部の上層部は現憲法を停止したうえ、現内閣を総辞職させ航宙軍主導のもとあらたな内閣を組閣するため、クーデターを起こした。クーデターを成功させるためには、皇都防衛軍の無力化と皇王の身柄の確保が絶対条件となる。

　皇都防衛軍は皇都防衛艦隊と地上軍からなる独立組織だ。したがって皇都防衛艦隊の指揮権は航宙軍にはない。皇都防衛艦隊は低速ではあるが惑星防衛には十分な能力を持つ複数の旧式戦艦や大型の戦闘惑星、多数の戦闘衛星を保有し、さらに静止衛星上の軌道エレベータープラットフォーム上の防衛システムも保有しており、航宙軍本部の判断、命令だけで自由に動かすことができる地方艦隊でどうこうできるような戦力ではなかった。

　航宙軍本部は、皇都防衛軍から皇都防衛艦隊の指揮権を取り上げるため、かねてより、防衛軍内に潜入させていた工作員に皇都防衛軍司令長官を暗殺させ、その混乱に乗じて、防衛軍の主要司令官、指揮官を航宙軍特殊戦部隊を使い次々に逮捕していった。これにより航宙軍は皇都防衛艦隊の実質的な指揮権を掌握（しょうあく）してしまった。

　航宙軍本部の隷下（れいか）に組み込まれることを免れた一部の防衛軍部隊は航宙軍部隊に対し抗戦の構えを見せたが、皇都上空の衛星軌道を航宙軍に組み込まれた皇都防衛艦隊の戦闘艦が周回し、威圧のため、大洋上の無人島を艦砲により蒸発さたことで、残存皇都防衛軍部隊および、陸戦隊留守部隊は航宙軍本部に降伏した。

　最終局面として、皇王の身柄を確保するため航宙軍特殊戦部隊員４００名が皇宮（こうきゅう）に突入した。皇王の身柄を確保するためには皇室に絶対忠誠を誓う皇宮警備隊を全員排除する必要があるため、４０％以上の人員損耗をもとより見越したうえでの強行作戦だったのだが、蓋を開けてみれば人員損耗ゼロ。その代り、玉である皇王一家の所在は不明で、皇王保護作戦は完全に失敗した。

　皇王の行方について皇宮警備隊員への聞き取りは無意味なので拷問や薬物による聞き取りなどは行われていない。（皇宮警備隊員は意志の力だけで自死することが可能であるといわれている）

　航宙軍特殊戦部隊による、その他の作戦は見事成功している中での大失態だった。

　皇王不在では、組閣の大命を得ることが出来ないため、航宙軍はニセの『大命』を作成し、クーデターの首謀者、先の北条直道大将の予備役編入に伴う後継人事で航宙軍本部次長に昇格した月島周作大将を首班とする月島内閣が組閣された。このとき、予備役に編入されていた盟友北条直道大将を現役復帰させ、皇族の航宙軍本部長を解任したうえ、航宙軍本部長に就かせている。

　反乱軍は、いまは名目上の正規軍となったが、玉を取り逃がしたことが判明した後は、迅速に対応し艦艇により速やかに安定宙域を封鎖している。

　皇宮での玉の保護は失敗したものの、星系を厳重に封鎖している以上、玉が星系外に脱出する可能性は極めて低いため、いずれ星系内で玉を保護できるものと航宙軍本部では楽観視していた。

　航宙軍本部がクーデターを起こした時点で、皇国１２家のうち皇都に居を構えていたのは、北条家と北条家に近い月島家、工藤家、村田家と村田家に近い吉田家の５家だが、村田家と、吉田家はなんやかやと難癖をつけられ資産を没収された。

　また、吉田家の当主と嫡子に対しては逮捕状が出されたが、たまたま（・・・・）二人とも別の星系に急用ができ不在だったたため逮捕から逃れている。涼子の父と兄である。村田家の場合、すでに皇都惑星内の資産は全て売却済みで、流動資産についても退避済みだったのは言うまでもない。吉田家については、流動資産のみ退避が間に合った。本当は、うち同様全て何とかなったのだろうとは思うが、ワンセブンはこれについては言及していない。

　これまで、大華連邦の侵入艦隊を追って皇国内を無駄に転戦していた第３艦隊だったが、皇都での変事が発生した時、なぜか訓練（・・）の指示を受け出航中だった。また、陸戦隊の強襲揚陸艦二隻は第３艦隊に同行している。

　陸戦隊の強襲揚陸艦二隻（うち一隻には臨時陸戦隊総司令部が置かれている）は、クーデター初期の段階から皇都防衛軍よりの緊急信を受けており、航宙軍本部からの、皇都惑星のある輝玉星系への帰還命令を無視し、皇国中央星域から離脱し玉（ぎょく）を保護したとする村田侯爵からの署名付き通信を得た第３艦隊とともに竜宮星系に向かった。

［あとがき］

クーデターに至る描写が適当で申し分けありません。ご都合主義ということでご勘弁を願います。