銀河をこの手に！－試製事象蓋然性演算装置X-PC17－

第8話 駐留艦隊

　ワンセブンとの個人的（・・・）会話を終えた俺は、

「予定にはなかったがいろいろ有益な試験を行うことが出来た。本艦はこれよりＵＲＡＳＩＭＡに帰投する」

　たった２名の部下に対して宣言し、艦をＵＲＡＳＩＭＡへ向けた。

　そういえば、ワンセブンも俺の部下と思えばいいのか？

「Ｘ－７１、前進微速」

「前進微速」

「Ｘ－７１、停止。係留索接続完了」

「係留機まで距離１２０、１１０、……、１０、０。着岸しました」

「本日のＸ－７１の性能試験はこれにて終了する。山田大尉、吉田少尉、お疲れさん」

「お疲れさまでした」

　こうして俺たちはＸ－７１から退艦した。

　実験部の出先事務所に戻り、

「性能試験については思わぬことになってしまったが問題ないだろう。今日はこれから山田大尉の歓迎会を将校クラブで行おうと思うがどうだ？」

「ありがとうございます」

「わーい。お酒だ、ただ酒だ！」

「それじゃあ、戦闘服から制服に着替えたらこの部屋にいったん集合」

「了解（りょうかーい）」「了解しました」

　実験部の制服は、航宙軍の制服に実験部を表す水色の四角いバッジが付いているだけのものだが、それだけでも簡単に所属を判断することはできる。

　その制服に着替えたわれわれはＵＲＡＳＩＭＡ内に設けられている将校クラブに向かった。

　将校クラブは、少尉以上の将校が低料金で利用できるレストランのようなものだが、たいていは佐官級以上のものが利用している。少尉、中尉といったいわばぺーぺーにとって上司と同伴するときは良いが、それ以外だと将校クラブの敷居はやや高いのも事実である。

　現在、このＵＲＡＳＩＭＡで最も階級の高い将校は駐留艦隊司令官の瓜田（うりた）少将で、大佐は不在のため、中佐がその次に来る。ＵＲＡＳＩＭＡにいる中佐は、駐留艦隊の旗艦、軽巡香取（かとり）の艦長と俺の二名しかいない。

　軽巡香取は軽巡としては珍しく、航続距離が長く居住性が高い艦だということだが、その分火力は低く、同様に加速性能も低い。そのため隷下の６隻の駆逐艦の先頭に立って敵艦に突っ込んでいくことは難しい。しかも、この６隻の駆逐艦も一世代前の駆逐艦のため、機動力が低く、敵艦に肉迫時に撃破される可能性が高い。

　要するに、このＵＲＡＳＩＭＡに駐留する第４４艦隊は二線級、またはそれ以下の戦力しか有していない地方艦隊に過ぎないということだ。したがって、巡洋戦艦２隻とその他多数の戦闘艦を抱える敵戦力に対して対抗することは自殺するようなものだと考えるまでもなく簡単に結論できる。

「実験部は気楽でいいよな。別に訓練するわけでも、長期の艦隊勤務もあるわけじゃない」

「女性隊員と適当に船で遊んでいればいいんだろ？　いいご身分だ」

「このＵＲＡＳＩＭＡにいる実験部の連中は中央から左遷された連中らしいぜ」

　ビールを最初に頼み山田大尉の着任を祝って乾杯したあと、適当に料理のメニューを眺めていたら、駐留艦隊の若手将校らしき連中がこちらのテーブルをチラチラ見ながら話をしている。

　適当なことを言ってくれる。これみよがしの陰口は、ただのイヤミなんだがな。最後の左遷については君らのことだと思うぞ。すくなくとも、俺はこの星系に来たくて来ているんだがな。しかも俺は、今でこそ実験部にいるが、艦隊指揮過程を終えているし艦隊勤務も勤めて来た艦隊士官なんだぞ。軍外での身分は言わずもがな。ここに古くからいる連中ならだれでも知っていることだが、そこでイヤミを言っている連中は最近配属されたのだろう。どうも、実戦部隊の中にはここにいる連中に限らず、他の支援部隊などに対して無意味な優越感を抱いている者が多いようだ。

　頼んだ料理がやって来たので、軽くうちの二人と雑談をしていたら、珍しいことに、駐留艦隊の旗艦、軽巡香取の中島艦長が将校クラブに部下の将校数名を連れて入って来た。それを見て、先ほどまでわれわれにイヤミを言っていた連中があわてて敬礼をしていた。

　それに軽く答礼をした中島艦長が、俺の方にやってきて、

「これは、村田中佐、お久しぶりです」

「ああ、久しぶり、最近艦隊の方は訓練をあまりしてないように見えるが？」

「ここだけの話しですが、うちの新しい司令官閣下がそういったことにあまり熱心な方ではないため、艦はここに係留したまま、もっぱらシミュレーターで訓練しているんです。そういえば、村田中佐の実験艦、今日は性能試験をしたんでしょう？　どうでした？」

「いやあ、最高だったぞ」

「それはそれは。艦隊当時、鬼の村田とまで言われて上からも一目置かれていた村田さんも実験部になじんで結構なことですね」

　俺と、中島艦長が親しく会話しているうえに、明らかに香取の中島艦長の方が俺に対してへりくだっているところを目にしたさっきの連中が黙り込んで嫌な汗をかいている。俺はバカ者には興味はないが、おそらく香取の中島艦長は耳がいいから、そのうち連中のことを耳にすると思う。かわいそうに。

［あとがき］

短編ＳＦ『我、奇襲ニ成功セリ』

http://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547　もよろしくお願いします